羅生門に見る人間の本質

芥川龍之介の小説「羅生門」には下人と老婆の2人が登場し、あるやり取りが行われました。

このやり取りを通じて人間の本質を探ってみましょう。

下人は老婆の着物を剥ぎとった

まず最初は次の事実から考えてみます。

 ・下人は老婆の着物を剥ぎとった

まずは、下人を単に「悪人」と決めつける前に、ちょっと考えてみましょう。

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下人がとったのは「老婆の着物」でした、そしてそれ以外はとってはいませんでした。

つまり、

 ・下人は老婆が手にしていた「髪の毛」は
   奪いとらなかった
  もちろん「老婆の命」も奪わなかった

次に事実の理由を考えてみましょう。

 1)下人は何故老婆の着物をとったのか?

  ->老婆の着物をお金に換える方法を
     知っていたから

 2)下人は何故老婆が手にしていた髪の毛を
    とらなかったのか?

  ->髪の毛をお金に換える方法を
     知らなかったから

 3)老婆は何故死人の髪の毛をとったのか?

  ->髪の毛をお金に換える方法を
     知っていたから

 4)老婆は何故檜皮色の着物を
    着ていたのか?

  ->その着物をお金に換える方法を
     知らなかったから

そして次に老婆のとった行動は何だったでしょうか。

 5)老婆は他の死人の着物を剥いで身に着けた

というストーリーが考えられますね。

とすれば、この下人は本当の悪人にはなり切れなかったとも言えそうです。

次は、下人がどんな心の動きの結果老婆の着物を剥ぎとるに至ったかを考えてみましょう。

 1)生きるための「盗人」
    になる勇気がなかった

 2)死人の髪の毛をとる老婆を
    見て、激しく憎悪した

 3)自分を恐れ、恐怖に
    おののく老婆を見て
   憎悪の気持ちは消えた

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 4)老婆の「餓死を避けるため
    仕方なくすることは
    許されること」
   という話に納得した

 5)だから「自分が生きるため
    老婆の着物をとることは
    許されること」
   という「大義名分」を得た

そして老婆の着物を剥ぎとったのでした。

大義名分の力

この「大義名分」(=正当な理由)は人の行動に大きな影響を与えるようです。

孫氏の兵法にも、勝つために大事なこととして

  道、天、地、将、法

がありますが、最初に出てくるのがいちばん大事なことで、これが

  道(=大義名分)

なんですね。

このことを行動で如実に示してくれたのが1912年、当時世界最大の客船タイタニック号の沈没事故でしょう。

船が徐々に沈没していく中、ボートなどで助かった人たちもいました。

Vanderbilt大学の記録に残っている全1309人の中では

  男性の生存者 843人中 161人
  女性の生存者 466人中 339人

圧倒的に女性の生存率が高くなっていて、男性の多くは亡くなっていました。

人としてどんな行動をとらなければいけないのかという「道:大義名分」の前に、屈強な男性たちは自身の命を捨てたのですね。

ちなみに、助けられたのは女性だけでなく、子供たちも優先されたとのことでした。

助かった男性の中には子供も多く含まれていたのでしょう。

おまけ

ところで羅生門のあの下人のその後はどうなったんでしょうね。

ただ、いずれにしろあの羅生門での出来事は、あの下人の頭からは一生忘れることはないでしょう。

もしあの時の老婆と再会することがあれば、謝罪したいと思いながらその後の生涯を生きることになったかもしれません。

まあありそうにもないですが、二人で協力しあって生きていくなんていう可能性もあったかも知れませんね。

老婆の作るかつらを下人が売りさばき、老婆が見立てた着物を下人が売りさばく、みたいな共同作業があったりしたら面白いですね。

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