アメリカの精神科医でミルトン・エリクソンという人がいたのですが、その人は催眠療法家としてとても催眠が上手な人でした。
そして人間観察の力が際立って優れていました。その優れた能力のおかげで、エリクソンはそれまでのやり方とは全く異なる、彼独自の催眠療法のやり方を作り上げていました。
そんなミルトン・エリクソンの素晴らしい能力の元はと言えば、17歳の時に彼がポリオにかかってしまい、一時期、体の自由が全く利かなくなってしまったことにあったようです。
医師から
この少年は朝まで持たないだろう
と宣告されてしまった少年が、何とか一命をとりとめたものの、しばらくは眼を動かすことと聞くこと以外は体を動かすことができず、炎症のため体の感覚もなくなっていました。
ところがこの少年はそれでも、
何とかして人生の楽しみを
見つけてやる
という意志のもと、人間観察を始めたのでした。
その結果、人間観察と催眠の天才が生まれたのでした。
体を動かせない中での楽しみ
耳で聞くことと眼を動かすことしかできなくなってしまったら、ほとんどの人は絶望してしまいそうに思いますが、それでも前向きに「人生の楽しみを見つける」と思えること自体が「天才的」ですね。
そして彼がやったのは
周囲の人と環境の観察
そして、最初に気づいたことが姉たちの言葉の中で
「はい」の中に
「いいえ」の意味を込めることができる
ということでした。
言葉はコミュニケーションの一部にしか過ぎない、ということですね。
そしてこのとき非言語的言葉、身体での言葉を学んだようです。
また、彼にはハイハイし出したばかりの妹がいました。その妹がハイハイから立ち上がるまでの過程を少年エリクソンは真剣に観察しました。
やがて自分も立ち上がることを学ばなければいけない、ということを知っていたので、本当に真剣に観察したのでしょう。
でも私たちはどうやって立つことを学んだのか知りません。
彼の観察したことは、
・まず手を上に伸ばして
自分の体を引き上げます
・両手に重みをかけ、たまたま
足に体重をかけることを
発見しました
・でも、膝はじきに崩れます
・膝をまっすぐにすると
お尻が崩れます
・両足を交差させると
膝もお尻も崩れます
・ ・ ・
・ついにどうやって片足を前に動かし
一歩進むかを学びます
・ ・ ・
・次の3度目の一歩は
同じ足を前に出したので、
ぐらぐらっとなりました
・ ・ ・
・今や、手を振り、頭を回し
右や左を見て歩いてゆく
ことができるのです
「私の声はあなたとともに」より
精神科医のミルトン・エリクソンが自分の元に訪れた患者にこの話をさりげなく話す時、患者はこの話の中からいろんな気づきを得ました。
エリクソンの言葉
子どもの頃のエリクソンの逸話にこんなものがあります。
少年エリクソンの家の敷地に一頭の馬が迷い込んできました。エリクソンはその馬を持ち主に返そうとしたのですが、その馬が誰のものかが分かるようなものは何もありませんでした。
少年エリクソンはどうやってその馬を持ち主に返したのでしょうか?
彼がやったのは、ただ馬に乗って道を歩かせ、馬に行き先を決めさせました。ただし馬が道を外れそうになった時や草を食べようとした時に、それをさせないようにしただけでした。
とうとう馬が数マイル先の農場にたどり着いた時、そこの人が
どうしてこの馬がウチの馬だと
わかったんだ?
と聞かれて、
私は知りません
馬が知っていました
精神科医ミルトン・エリクソンの治療の基本的考え方につながる考え方なんですね。
続いては、彼が州の養護施設で1~2歳の子どもの聴力を検査する必要に迫られた時、彼が考えた方法も独創的なものでした。
エリクソンは職員に後ろ向きに歩きながら、子どもを後ろ向きに歩かせて来るよう言いました。
そして待っていたエリクソンは、文鎮を床に落としました。それは重い文鎮でした。
職員はあたりを見回しましたが、耳の聞こえない子どもは床を見ました。足元に振動を感じたからでした。
そしてエリクソンの言葉
「さあ、私がそう考えたのに、
どうしてあなたがそう
考えられないでしょうか?」
でした。
どうしましょう。
参考