放送大学・「認知症と生きる」第3章
認知症の医学的な特徴② アルツハイマー型認知症
認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章B] 記憶以外では
講義内容の整理
アルツハイマー病は脳が委縮しておこる病気ですが、その初期には特に「海馬」と呼ばれる部分の委縮が多くみられます。
海馬は脳の機能としては最初に記憶が通る場所と言われて、新しいことを覚えるのが難しくなってしまいます。
新しいことを覚えられないという記憶の障害が最初に現れることがアルツハイマー病の特徴ですが、記憶の障害以外にも初期の症状として現れることに、「見当識障害」と呼ばれるものがあります。
地誌的見当識障害
実行機能障害
あるいは
味覚(好み)が変わる
などもあります。
アルツハイマー型認知症の比較的初期に現れる症状を見て行きます。
地誌的見当識障害
地誌的見当識障害は、場所や地理などで見当がつかなくなることで、典型的な症状としては「迷子」です。
例えば非常に慣れた道、もしくは家の近くなのに迷ってしまう、といったような認知機能障害が出ることもあります。
これは知らない土地に行ったからというわけではなく、今いる場所の記憶があるにもかかわらず、どっちに行けば家に着くのかが分からなくなってしまうという状態です。
分からないまま歩き続けて、徘徊ということになることもあります。
実行機能障害
実行機能の中では、典型的には、料理を作るというのが日常生活で非常に重要な実行機能です。
目的に沿ったプランを立てて、途中で修正をしながら目的を達成するという、実行機能が障害されることが「実行機能障害」です。
その結果、いままで得意にしてきた料理がうまく作れなくなるなどが起きます。
その他にも、例えば役所で手続きがうまくできなくなった、確定申告がうまくできなくなったなどと、それまでは自分でしていたことができなくなってしまう、という形で症状が出る場合もあります。
「お湯を沸かす」といった行為でも、「やかんのフタを開ける」、「やかんに水を入れる」などのひとつひとつの行為はできるのに、一連の行為を順序立てて行うことができなくなってきます。
好みが変わる
アルツハイマー型認知症の人の中には、「好みが変わる」、「味覚が変わる」という人も比較的多くいます。
たとえば、いままでは「甘いものは嫌い」だったはずの人がケーキやだんごなどをよく食べるようになったなどということが起きます。
今までは、こういった味のものは食べるような人ではなかったのに、最近はそういうものばかり食べているとか、あるいは非常に好むようになった、などと言われる例もあります。
この現象は、老人斑、神経原繊維変化といった脳の病理学的変化が、実は嗅覚をつかさどる神経にも比較的早くから蓄積することと関係しているのではないかと言われています。
ひとり言
これはひとり言ですが、地誌的見当識障害や実行機能障害などで、ひとつひとつのことができるのに、あるいは今いる場所は覚えているのに、どうして次のことに結び付かないのかを考えてみました。
脳科学の中の言葉で、
「プライミング効果」
というのがありますが、これは
「先行する刺激(プライマー)の処理が
後の刺激(ターゲット)の処理を
促進または抑制する効果」
と言われています。
これは昔あった連想ゲームのようなもので、ある記憶が基になって、別の記憶を思い出させるということですね。
たとえば、「やかんの中のお湯が沸く」という記憶が「水の入ったやかんにガスの火があたる」⇒「ガス台のスイッチを入れる」・・・
といった一連の記憶の連鎖が健康な人なら起きるのに対して、認知症の障害によって起きなくなってしまい、お湯を沸かすために何が必要になるのかが分からなくなってしまうのではないかな、と感じています。
参考
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章A] 初期の特徴)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章B] 記憶以外では)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章C] 進行と経過)