放送大学・「認知症と生きる」第3章
認知症の医学的な特徴② アルツハイマー型認知症
認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章C] 進行と経過
講義内容の整理
アルツハイマー型認知症では、初期のもの忘れに続いて、見当識障害、実行機能障害といった様々な認知機能障害が、進行悪化していきます。
最初は生活にはほとんど影響のないレベルでの症状が、徐々にもの忘れが増えて、料理などのいろいろなことがうまくできなくなってしまいます。
やがて薬が自分で飲めなくなったり、服を自分で正しく着れなくなったりと進行することになります。
こういった進行がどのように進むのかを見て行きたいと思います。
アルツハイマー型認知症の進行
アルツハイマー型認知症の進行の特徴は、
非常に緩やかに出現する
と言えます。
図の中で、いちばん上の線が本来の健康な状態としたときに、その差が分からないぐらいゆっくりと出現してきます。
その初期には
・同じことを何回も言う、聞く
・しまい忘れや置忘れが目立つ
・ガス栓や蛇口の閉め忘れが多い
のように、記憶障害と関係する症状だけが出現してきます。
しかし、だんだん年数がたつに従って、上の図の例では5年ほどになりますが、症状の程度としては「中等度」と言われる状態になります。
この中等度に入ると、たとえば、
・病院でもらっている薬が
自分で管理できなくなる
・気候や天気に合った服を選べない
・服自体を自分で正しく着られない
のような症状が出現し、これ以外にもお風呂やトイレにも不自由するようになってきます。
日常生活の基本的な動作に支障をきたすようになってくる時期が中等度と言われる時期です。
そしてさらに進んでいくと、
・同居している家族がわからない
・家の中なのに
トイレの場所が分からない
といった高度の状態に移ります。
アルツハイマー型認知症の症状の進行の経過は、およそ初期のもの忘れの状態から、おおよそ10年、もしくは15年ぐらいすると高度の状態になると言われています。
これによって、どういう症状がみられるときに、アルツハイマー型認知症がどのぐらいの年数が経っているのかということが分かる目安となります。
また、もの忘れはあくまで初期の症状であり、病気が進行してくると、もの忘れ以外の認知機能障害や基本的な日常生活動作が障害されてくることになります。
病気の進行とともに、介護やサポートをより手厚く行う必要が生じることもアルツハイマー型認知症の特徴と言えます。
認知症と間違われやすい状態
認知症の初期に見られるもの忘れですが、健康な人でももの忘れがあります。
高齢になるともの忘れも増えるため、認知症ではないかと疑われることも増えてきてしまいますが、
健康な人の老化によるもの忘れと認知症によるもの忘れとの違いを考えてみます。
認知症によるもの忘れ
・体験全体を忘れる
・ヒントを与えられても思い出せない
・時間や場所などの見当がつかない
・日常生活に支障がある
・もの忘れに対して自覚がない
・新しい出来事を記憶できない
・1-2年で悪化
健康な人の老化によるもの忘れ
・体験の一部を忘れる
・ヒントを与えられると思い出せる
・時間や場所など見当がつく
・日常生活に支障はない
・もの忘れに対して自覚がある
・非常にゆっくりと進む
という違いがあります。
健康な人のもの忘れの「ヒントを与えられると思い出せる」ということは、実際には記憶できているんですね。ただ思い出せないだけなのでしょう。なのでヒントを与えられると思い出せることになります。
また、健康な人の場合のもの忘れは、もの忘れの自覚はあっても日常生活には支障がないことがほとんどです。
健康な人でも年齢とともに徐々に記憶力は衰えますが、もの忘れの進み具合をみていくと、認知症の場合には1-2年でもの忘れが増えてしまうのに対して、健康な人の老化によるもの忘れの場合は、10年ー15年といった単位での進行になります。
認知症の人のもの忘れの特徴としての体験全体のもの忘れは、一部のもの忘れと違って、たとえば「電話があったこと自体を忘れてしまう」ので、誰からの電話だったのか、といったもの忘れの自覚がないことも特徴と言えるでしょう。
参考
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章A] 初期の特徴)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章B] 記憶以外では)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章C] 進行と経過)