放送大学・「認知症と生きる」第12章
認知症の人とのかかわり④ コミュニケーション
認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章E] 実践
講義内容の整理
ここでは、今がいつでここがどこかが分からなくなってしまった認知症の人に、「今」を伝える技術としての「リアリティオリエンテーション」の事例の
コミュニケーション・事例
に続き、今を伝える意識のあり方、および劇団いくりの方(介護福祉士)との会話を通じての、実践例の紹介です。
ケアホームの介護福祉士の方が、劇団いくりの団員として寸劇を見せることで、認知症の人のケアのあり方を教えてくれているのですが、ここでは講師の先生が認知症の人(劇団の人が演じています)と会話をする場面もあります。
今を伝える意識
今がいつか分からなくなってしまった認知症の人と会話をして、認知症の人に「今」を伝えるためには、常に
「今」を伝えることを意識
していることが大切になります。
今を伝えるために意識することは、常に口に時をつけて話すということが大切です。これは意図的にそうするということです。
例えば「ご飯ですよ」と声を掛ける場合には、「朝ご飯ですよ」あるいは「昼ご飯ですよ」などのように、時の言葉とともに声を掛けます。
そして、「お昼ご飯の前にトイレに行きましょう」、「朝ご飯の前に手を洗いましょう」のように何度も口に時をつけて話すことで、認知症の人には点だった時間の流れが、線という時間の流れに近づけることができるでしょう。
また「お茶ですよ」ではなく、「10時のお茶ですよ」のように時を教えながら声をかけるという、普段の心がけによって、「今」を伝える機会がずいぶん増えます。
慣れない間は大変ですが、是非試して頂ければと思います。
リアリティオリエンテーションの実践
劇団いくりの認知症役の和ばあさんに、講師の先生が話しかけるシーンで、リアリティオリエンテーションの実践例を教えてくれます。
おばあさんがテーブルの前の椅子に座っているところに先生が行き、空いている椅子に座っておばあさんに話しかけます。
・先生
「和ばあさん」
・和ばあ
「はい?」
・先生
「こんにちは」
・和ばあ
「あれ こんにちは」
・先生
「〇〇と申します」
・和ばあ
「あんた〇〇さんというの?」
・先生
「はい
お名前よろしいですか?」
・和ばあ
「私の名前?
私の名前は△△和っていうの」
・先生
「△△和さん どんなふうに
皆さんに呼ばれていますか?」
・和ばあ
「和さんって呼ばれんだわ」
・先生
「じゃあ私も和さんって
呼んでよろしいですか?」
・和ばあ
「いいよ」
・先生
「じゃあ私のことは
〇〇さんって呼んでください」
・和ばあ
「ああ そうけ
○○さんって呼べばいいのね」
ということでいつも通り自己紹介から会話が始まりました。
お次は早速リアリティオリエンテーションが始まります。
・先生
「ところで今日は 実は
もう8月11日 月曜日なんです」
・和ばあ
「8月?
あら そんなになんのけ」
・先生
「はい
ここ すごく涼しいんですが
外は もうカンカン照りで
35度ですよ」
・和ばあ
「35度? いや たまげたね」
・先生
「熱中症に気をつけてくださいね」
・和ばあ
「んだ クラクラしちゃうねえ」
ということで日付や天気を話題にした後は、先生は
「畑仕事したら、
夏は まず食べるものといえば?」
と、しばしスイカの話題で話を弾ませてくれました。千葉はスイカがたくさんとれるとか、熱中症の予防になることとか、スイカは全部食べられるとか、ちょっとした物知り自慢でしたが、スイカを使って季節が夏だということも伝えていました。
和ばあさんも茨城でも鉾田というところではスイカがたくさんとれると返していました。
そしてまたリアリティオリエンテーションです。
・先生
「今は12時ちょっと過ぎなんです
何だかお腹すいてきませんか?」
・和ばあ
「腹減っちゃったんだわ」
・先生
「そうですよね
だから お昼ご飯の前に
手を洗いにいきましょうか」
・和ばあ
「んだな」
・先生
「3分間 お待ちください」
・和ばあ
「3分待てばいいの?」
・先生
「はい そしたら
一緒に手を洗いにいきましょう」
・和ばあ
「んだな」
先生、「3分間お待ちください」の言葉で、鮮やかに話を切り上げていました。
参考
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章A] コミュニケーション・あり方)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章B] コミュニケーション・手段)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章C] コミュニケーション・技術)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章D] コミュニケーション・事例)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章E] コミュニケーション・実践)