認知症と生きる、人とのかかわり④ コミュニケーション 技術

放送大学・「認知症と生きる」第12章

  認知症の人とのかかわり④ コミュニケーション
  認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章C] 技術

講義内容の整理

ここでは、認知症の人とコミュニケーションをとる際に、どのようにすればいいのかという

  コミュニケーション技術

がテーマです。

質問の仕方や、相手の名前を呼ぶことの大切さ、そして相手に共感することの大切さなどを勉強します。

また、後半では認知症のお年寄りとの会話を、認知症を演じる劇団の方との模擬実演で、どのように会話を進めていくかの例があります。

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コミュニケーション技術

かかわるケアとして、コミュニケーション技術がテーマです。

項目として、名前、質問、かかわる意味、非言語的コミュニケーションとあります。

まずは「名前」ですが、自分自身の自己紹介をします。そして相手の人も社会の一員としての名前を持っていますので、社会の一員としての〇〇さんと、「これからあなたと話します」という、焦点を当てる意味でも○○さんという呼びかけをします。

次に「質問」ですが、質問には「開かれた質問」と「閉ざされた質問」とがあります。

例えば「この本を読んでどう感じましたか?」と聞かれると、「あの場面ではこんな風に感じて・・・」などのように、「はい」、「いいえ」だけでは済まない、解説や説明が必要になります。
これが「開かれた質問」です。

こんどは、「この本は面白かったですか?」と聞かれると、「はい、面白かったです」あるいは「いいえ、面白くなかったです」などと、「はい」、「いいえ」で簡単に答えられます。
これが「閉ざされた質問」です。

認知症の人を相手にしているという意識があると、どうしても「はい」「いいえ」で答えられる閉ざされた質問をしがちですが、これだと質問者中心の一方的コミュニケーションになりがちなので注意が必要です。

相手の認知症のレベルに応じて質問をすることが大事です。

そして3番目の「かかわる意味」は

  共感すること(リンク:コミュニケーション 手段)

です。

例えば、「家に帰りたい」と訴える認知症の人に対して、

  ・家に帰りたいんだな
  ・息子が心配かな
  ・夫の夕飯を作りたいのかな

と思いめぐらすことは「かかわる」行為ですが、

  ・向こうでお茶を飲みませんか
  ・散歩に行きましょう
  ・楽しそうにゲームをしてますよ

と、気持ちを転換させようとする語りかけは「かかわる」行為とは言えません。認知症の人の訴えに応えてもらえないケアは、認知症の人にとって苦痛かもしれません。

4番目は「非言語的コミュニケーション」です。

これは例えば、一緒に歩く、一緒に食事を作る、一緒に外出するなどの、対象者の気持ち・感情に添った実際の対応行動のことです。

かかわるケアの実際例

実例として、茨城県にある劇団いくりで認知症のおばあさん役の和ばあさん(実際は介護福祉士の方)と、講師の先生とでの、認知症の人とのコミュニケーション技術の実際例の演技です。

和ばあさんがぽつんとテーブルの前の椅子に座っています。

和ばあさんの足は床に届かないので、足元には発泡スチロールが敷いてあり、足が床(発泡スチロール)にしっかりとついています。

講師の先生が和ばあさんのところにやってきます。

・先生

  「和ばあさん こんにちは」

・和ばあ

  「いやあ こんにちはって…
   あんた 誰だい?」

・先生

  「私は〇〇といいます」

・和ばあ

  「〇〇さん?」

・先生

  「はい 福島生まれです」

  「お名前よろしいですか?」

・和ばあ

  「私の名前?
   私の名前は△△和っていうの」

・先生

  「いつも
   どんなふうに呼ばれていますか?」

・和ばあ

  「和さ~んって」

・先生

  「和さ~んって呼ばれてるんですね
   私も和さ~んって呼んでいいですか?」

・和ばあ

  「呼んでいいよ
   でも あんた誰?」

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・先生

  「私は〇〇なので、
   〇〇さ~んと呼んでくれれば
   うれしいです」

・和ばあ

  「〇〇さ~んって呼べばいいの?」

・先生

  「はい お願いします」

ということで話の本題に入っていきました。

認知症の人にとって、どこの誰か知らない人から突然自分の名前を呼ばれて、あれして下さいとか、これしましょうとか言われるのは恐怖だとのことでした。

先生も、大きな駅で知らない人が自分に「〇〇さん、一緒にトイレに行きましょう」と言って来たら、きっと逃げると言っていました。

なので本題に入る前に、毎回しっかりと自己紹介や名前の確認をするんですね。

・先生

  「少しお話をしていいですか?」

・和ばあ

  「ああ いいよ」

・先生

  「よろしくお願いします」

・和ばあ

  「はい こちらこそ」

・先生

  「え~ 和さん
   和さんは 今日 どうやって
   ここにいらっしゃいましたか?」

・和ばあ

  「ここはどこなの?」

・先生

  「ここはね
   放送大学というところなんです」

・和ばあ

  「知らねえ人に
   連れてこられちゃったんだっぺよ

   誰も知らねえ人だよ」

・先生

  「電車とかで
   来たんではないですか?」

・和ばあ

  「分かんね 分かんね」

・先生

  「分からない
   じゃあ 今 とても不安ですか?」

・和ばあ

  「何もかも分かんねえから
   どうしようもねえくれえ不安だよ」

・先生

  「あら 不安ですね
   何が今 一番 不安ですか?」

・和ばあ

  「みんな
   知らねえ人ばっかりだから」

・先生

  「知らない人ばっかりなんですね
   じゃあ 私と一緒に回って
   それぞれ紹介しましょうか」

・和ばあ

  「早く帰してちょうでえ」

・先生

  「そうですね 家に帰りたいのね
   不安なんですよね」

・和ばあ

  「うん」

和ばあさん、不安そうにうなだれてしまいました。

先生は和ばあさんの不安を和らげるため、家に送ってあげましょうと言いました。

・先生

  「一緒に帰りましょう」

・和ばあ

  「ほんじゃ
   早く送ってってちょうでえよ」

・先生

  「そうですね
   じゃあ あと3分お待ちください
   準備しますから」

・和ばあ

  「ああ そうけ」

・先生

  「安心して待ってください」

・和ばあ

  「じゃ 握ってっぺよ」

和ばあさんは、先生の手をしっかりと握っていました。

先生の解説です

先生が突然名前を「和ばあさん」と呼んだら、和ばあさんは「どちらさんですか?」と知らない人に名前を呼ばれることの不安さを示していました。

なので、まずは自己紹介と相手の名前を聞くという、基本的なあいさつをするのは、認知症の人とのかかわりの第一歩となります。

そして改めて会話をする時は「和さん」と、和さんと話をしていますよという焦点をあてました。

また、

  「どうやってここまで
   いらっしゃいましたか?」

という開かれた質問は、認知症の進行程度によっては時として、非常に難しくなることもあります。

そのかわり、閉ざされた質問、「怖いですか?」、「不安ですか?」と言うのは、答えやすくなります。

続けて先生が

  「どんなことが不安ですか?」

と聞くと、「知らない人ばっかりで、不安なんだ」と答えてくれましたが、こういう質問だと、和ばあさんは答えられます。

そして、「不安なんですね」と言って肩に手を置きました。これは「共感する」ということです。

参考

  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章A] コミュニケーション・あり方)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章B] コミュニケーション・手段)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章C] コミュニケーション・技術)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章D] コミュニケーション・事例)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章E] コミュニケーション・実践)

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