放送大学・「認知症と生きる」第6章
認知症の人の行動と心理的特徴の理解①
認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴3[6章C] 失認、失行
講義内容の整理
認知症の人に共通してみられる症状(中核症状)の、ここでは失認・失行がどういうことなのかについて見ていきます。
「失認」とは、感覚障害や知能低下などがないのにも関わらず、対象のものが何なのかが分からなくなってしまうことです。
血管性認知症の場合は特に多く見られます。
物だったり、人の顔だったり、音だったりと、様々な場面で出現します。
「失行」とは、運動機能や麻痺などの障害がないのにも関わらず、以前はできていたことができなくなることです。
これも血管性認知症の場合に一般的にみられる症状です。
失認・これが何なのか分からない!
感覚障害や知能低下がないのに、「これが何なのか分からない」という状態のことで、血管性認知症の場合には一般的な症状です。
能力が失われることはどうしようもないので、失われた能力を周囲が補う対応が必要となります。
「これ」、というのは
・物 (物体失認)
よく知っているはずの物なのに、何だか分からなくなってしまうこと。
ただし、触ったり音を聞いたりすると認識できることが多い。
・顔 (相貌失認)
人の顔が分からなくなる「失顔症」とも呼ばれ、顔全体で認識できなくなる症状です。
5分前に見た家族の顔を別の部屋で見ても認識できなくなったりします。
鏡に映る自分の顔も自分の顔と認識できなくなってしまいます。
・音 (聴覚失認)
電話の呼び出し音やインターホンの音など、よく知っているはずの音でも、それが何なのか分からなくなる症状です。
・地図 (地誌的障害)
道順障害と街並失認が一般的な症状です。道順障害は「目の前の建物が何かは分かっても、どちらの方角にいくと何があるのかが分からない」という自覚症状があります。
自覚症状がある点でアルツハイマー型認知症の見当識障害とは異なります。
街並失認はよく知っている建物を認識できなくなるため、結果として道に迷ったりしてしまいます。
・空間 (半側空間無視)
空間の右側もしくは左側のどちらかが認識できなくなる状態です。
なので、認識できない側にあるものに気づかなかったりぶつかったりしてしまいます。
ただ本人は半分無くなったという感覚や自覚がないため、周囲の人の援助が必要になってきます。
失行・できていたことができなくなった!
運動機能に障害がないのに、以前はできていたことができなくなってしまうことです。
この場合も能力が失われることはどうしようもないので、失われた能力を周囲が補う対応が必要となります。
血管性認知症には一般的にみられる症状です。
・動作の組み合わせが分からない (観念失行)
割り箸の袋から割り箸を取り出して、割るという一連の動作の組み合わせが分からなくなってしまうことです。
実行機能障害とは異なり、記憶の障害によるものではありません。
動作の組み合わせが分からなくなってしまうということです。
・衣服が着れない (着衣失行)
ボタンを順番に掛けて行くことができなくなったり、服の袖に足を通してしまったり服を裏返しに着てしまったりといった行為が現れます。
また、形を構成することができなくなる「構成失行」もあり、積み木やパズルがうまくできなくなったり、模写ができなくなったりします。
・意図的な運動ができない (観念運動失行)
自然に振る舞う行為はできても、意図的にやろうとするとできなくなることです。
人と別れる時に「バイバイ」と手を振ることはできても、帰るので挨拶しましょうと言われると手が振れなくなってしまうような症状です。
運動機能は正常でも、実際に行うことができなくなってしまいます。
参考
(認知症と生きる 老化と認知症との違い[6章])
(認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴1[6章A] 記憶、判断)
(認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴2[6章B] 見当識障害)
(認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴3[6章C] 失認、失行)
(認知症と生きる 認知症の人に見られる症状[6章D] 問題行動など)