放送大学・「認知症と生きる」第7章
認知症の人の行動と心理的特徴の理解②
認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章E] 段階別対応
講義内容の整理
認知症は進行性です。特にアルツハイマー型認知症の場合は、進行の段階ごとに特徴がありますので、
その特徴をしっかり見極める必要があります。
「もの忘れ」などを周囲から指摘されて気づき始める「健忘期」、
次に認知機能障害が進行して、認知症の本人自身が混乱を示すようになる「混乱期」、
言語によるコミュニケーションがほとんどとれなくなってしまう「終末期」という、
この3つの段階ごとに見て行きます。
(1)健忘期への対応
(2)混乱期への対応
(3)終末期への対応
健忘期への対応
「もの忘れ」などの認知症の症状が出始まる時期です。
そして、体験自体をそっくり忘れてしまうので、自分でもの忘れをしているという自覚がありません。
しかし周囲から指摘されることが増えてくることで、これまでと違っているということに気づき始める人もいます。
そして、そのことが原因で抑うつ的になったりすることもあります。
忘れてしまうことが原因で、同じことを何度も聞いてくる認知症の人に対しては、
「だから・・・」
「さっきも言ったけど」
というような対応を、つい私たちはしてしまいがちですが、これは認知症の人を責める態度と言えます。
認知症の人でも、何があったかは忘れても、その時どんな気持ちだったかという感情は覚えている、という話もあります。
なので、「だから」や「さっきも言ったけど」などのやり取りが続いてしまうと、
認知症の人と介護する人との人間関係が悪い方向に向いてしまいかねません。
さらに、認知症の人にとって、ここが自分の居場所ではないと感じ、「家に帰るという徘徊」の誘因のひとつともなってしまいます。
認知症の人からの質問には、できるだけ初めての質問のように、穏やかに答えてあげることが大切です。
混乱期への対応
認知症の症状が進行すると、認知症の人が混乱を示すようになってきます。
いろいろな判断力が衰え、勘違いや妄想などが起こってくる時期になります。
時間や場所、人などの見当がつかなくなり、徘徊などの行動・心理症状が起こってきます。
また、現在と過去の区別もつきにくくなり、自分の年齢が逆行してしまって、
実際の年齢より若くなったように思い込んだりすることもあります。
こんなとき、介護する人は認知症の本人と一緒になって混乱しないように気を付ける必要があります。
こうした混乱期が訪れることを事前に知り、認知症の人の混乱や不安を理解するよう努めます。
たとえば本当は80歳の人が「自分は40歳だ」と思い込んでいる場合、
「本当は80歳ですよ」といくら説明しても、うまく行かないことが多く、
ここは、本人にとっての現実世界を理解して、その世界の中で本人が納得できる方法を探すしかないでしょう。
終末期への対応
終末期は言語によるコミュニケーションがほとんどとれなくなる時期です。
失禁が見られるなど、身体面でのケアが常時必要になる時期で、残された生命の期間をどう過ごさせてあげるか、という問題の時期になります。
認知症の人本人が何をどう感じているのかということは、基本的には想像するしかありませんが、
反応が全くなくなったからといって、何も感じなくなったとは言えません。
終末期に入って何もかもが混とんとする中、その不安や恐怖はとても大きなものかもしれません。
たとえば、ここがどこか分からず、自分が誰なのかも分からない状態で寝たきりになった時、
自分に声を掛けてくれる人もないまま放置されたとしたら、どう感じるでしょうか。
そして時々知らない人が来て、自分の衣服を脱がせたり体を拭いたりしていきます。
こんな時期の認知症の人は何を望むのでしょうか?
きっと、誰かは分からなくても、温かいまなざしを向けて、手をにぎり、静かに語り掛けて貰えることが安心できることなのではないでしょうか。
混乱期には自分の話に耳を傾けてくれる人が、終末期には静かに語り掛けてくれる人が望まれるように思えます。
参考
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章A] 基本的理解)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章B] 病気の理解)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章C] 心理的特徴)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章D] 行動の特徴)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章E] 段階別対応)