放送大学・「認知症と生きる」第8章
認知症の人の行動と心理的特徴の理解③
認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章A] 捉え方
講義内容の整理
以前は認知症の人の行動の中で、介護が難しくなるような行動も多く、こういった行動のことを
「問題行動」
などと呼んだりしていました。
認知症の人に見られる症状としては、「記憶障害」「判断力障害」「実行機能障害」などに代表される症状、
多くの人に共通にみられる症状(中核症状)
と、それに付随して起こる症状として、「攻撃的行動」「妄想」「幻覚」などの
付随した症状(周辺症状)
とがあります。
過去に、これらの付随した症状のことをまとめて「問題行動」などと呼んだりしていたのですが、
近年では、これらの行動のことを
認知症の行動・心理症状
と呼ぶようになりました。
問題行動の捉え方
「問題行動」という時の「問題」とは何かということを考えた時、
従来考えられた「問題」とは、どちらかと言えば介護する人の立場に立っての「問題」だったのではないか、と考え直されたことがあります。
たとえば「徘徊」は、その途中でたくさんの危険に遭遇する可能性があり、介護する人が目を離せなくなるという意味で「問題」だったようです。
あるいは「物盗られ妄想」では、介護する人が犯人扱いされることが多く、これも介護を難しくしてしまうという意味で、「問題」となってきます。
その他にも、不潔行為だったり抵抗だったりと、介護する人の手を煩わせる行動は、やっかいな問題として考えられてきました。
しかし近年は、こういった「問題」という考え方は認知症の本人の立場に立ってはいないのではないかという議論がなされ、その結果むしろ
問題行動
と呼ぶことは「不適切な用語」と考えられるようになりました。
やっかいな行動の原因は何?
健康な人が行動を起こす時にはその理由がありますが、同じように認知症の人が行動を起こす時にも、その理由があると考えます。
たとえば徘徊をしようとする認知症の人に、その理由を聞くと
「会社に行く」
「子供を迎えに行く」
などという答えが返ってくることがあり、そして認知症の本人は真剣にそう信じています。
もし「子供を迎えに行ってあげないと子供がかわいそうだし、保育園の人にも迷惑がかかる」と考えて、家を出ようとする人にたいして、
「カギを掛けて
出られないようにする」
といったことをした場合、どういう結果が起きるのかはある程度想像できると思います。
よくない結果が起きてしまいますね。
「徘徊」のようなやっかいな行動を「行動障害」と呼んだ時期もありましたが、
本当の障害は
「子供を迎えに行く」という認知
にあって、その結果「外に出る」という行動の方は当然のこととされるようになりました。
つまり、「認知機能障害」が本当の原因であり、行動自体は障害ではないということです。
なのでこのような場合、
「部屋にカギを掛けておく」
という対応は「不適切な対応」ということになります。
行動・心理症状という捉え方
こうした議論を経た結果、国際老年精神医学会によって合意がなされた呼び方が
「認知症の行動・心理症状」
BPSD
(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)
でした。
従来の「問題行動」「行動障害」などの言葉に代わる用語として、「認知症の行動・心理症状」あるいは単に、「行動・心理症状」と呼ばれるようになりました。
参考
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章A] 捉え方)
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章B] 基本的考え方)
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章C] 行動症状)
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章D] 心理症状)