認知症と生きる、人とのかかわり② 生活支援・食事、排泄

放送大学・「認知症と生きる」第10章

  認知症の人とのかかわり② 生活支援
  認知症と生きる 認知症の人とのかかわり②[10章D] 生活支援・食事、排泄

講義内容の整理

認知症の人とのかかわり方と生活の支援のうち、ここでは

  食事と排泄

についてです。

単に食事をするというだけではなく、今がいつか分からなくなっている認知症の人に、

  もうすぐお昼ですよ

と言った声掛けや、服薬の管理のお手伝いだったり、

自分で尿意を訴えられない認知症の人や、トイレの場所が分からなくなった人などへの生活支援に関する話です。

スポンサーリンク

食事でのかかわり

上の食事の際の3つの原則です。

1.「食事に対するリアリティオリエンテーションの実施」

これは、食事の前の心の準備状況を整えるということです。

具体的には、例えば

  ・食前のトイレや手洗いの
   身だしなみの援助の度に

   「もうすぐ お昼ご飯ですよ
    お昼ご飯の前に
    トイレはいかがですか

    お昼ご飯の前に
    手を洗いませんか?」

ということで、声をかけて、認知症の人の心の準備を促します。

2.「食事をする雰囲気作り」

これはその人のこれまでになじんだ習慣や好みを把握した上で決めていきます。

例えば、茨城県にある「デイサービスセンターお多福」というところでは、

  お昼ご飯はテレビをつける

としていますが、場合によってはつけないということが必要かもしれません。

また人によっては、

  ひとりで食べる

  気の合うメンバーと
   何人かで一緒に食べる

など、個々に事情は異なってきます。

騒音だったり、音楽などの配慮もします。

3.「食事の姿勢」

姿勢が崩れてしまうと、しっかりとした食事ができなくなってしまいます。

これは認知症の人であってもなくても、同じことで、集中して食事ができません。

背中が曲がっていたり、身体が斜めにならないように注意をします。

この時、姿勢はなるべく90度ルールに近づけられるよう援助をします。

90度ルールは

  腰90度
  膝90度
  足首90度

のことです。

また、足が床に届かない状態だと、食事も十分にとれません。

その時は、段ボールや板などを利用して、足場をしっかりとするよう援助が必要になります。

排泄でのかかわり

すっきり排泄するための3つのポイントです。

1.「尿意を訴えられない人たち」

認知症の人は、自分の不快なことや身体の不調を、十分に訴えられません。

おしっこがしたいとか、うんちがしたいということを、しっかりと表現することができません。

そのため、落ち着かなくなったり、そわそわ歩き出したりといった行動をとってしまうことになります。

そういった行動を観察して、さりげなくトイレに誘導してあげます。

2.「排泄の混乱」

これは、例えばトイレの場所が分からなくなってしまったとか、トイレがトイレと分からなくなってしまったなどがあります。

さらには、トイレに行っても排泄行動が分からなくなってしまったなどの他にも、

「実行機能障害」のために、順番が分からなくなってしまった、などいろいろなことが起きます。

そのため、

  ・トイレの場所をはっきりと示す

  ・行動レベルでのモデルを呈示する

  ・一連の流れを分割して
       言葉かけをする

などがあります。この「言葉かけ」は、例えば

  「ここまで行きましょう」

  「ここまで行ったら
     扉をしめましょう」

のように、動作を分割して教えます。

ちなみに、ポータブルトイレはなじみがない場合が多いので、使用はなるべく控えることが望ましいと言えます。

3.「5分おきのトイレ」

これはよくある話で、さっき行ったのにまた行くと言います。

本人は「出てない」あるいは「行ってない」などと言いながらの5分おきのトイレ、というのも実際は目立ちます。

そこでスタッフと口論になったりしてしまうと、よけいにトイレに執着する結果にもなってしまいます。

こんな時には、

  ・膀胱に尿をためることの大切さを
    毎回、毎回 説明する

  ・訴えに視線を合わせる

  ・(1日に30回、40回と
     トイレに通うのは)
   「精神的につらい」ということに
    共感をする

  ・他に興味関心のあることを
   見つけて、取り入れる

  ・あるいは、逆に
   「トイレの心配はないですか」
    と先に聞いてしまう

などを心がけます。

スポンサーリンク

あとは排泄後の清潔を、しっかり、さりげなくケアをしてあげます。

トイレ誘導での実演

「劇団いくり」で認知症のおばあさん(和さん)役をされた方と、放送大学のアナウンサーの方、そして最後にはこの講義の先生とでの、おばあさんをトイレに誘導するという実演がありました。

まずは、介護には素人のアナウンサーの方が、和ばあさんをトイレに誘導するのですが…

 ・アナ

  「和ばあさん、トイレに行こうか
   もうそろそろ
    トイレに行きたいんじゃない?」

 ・和ばあ

  「あんた どちらさん?」

 ・アナ

  「私、和ばあさんをお世話する
    ○○です」

  ・ ・ ・

 ・アナ

  「トイレ 行こう」

 ・和ばあ

  「トイレ? トイレって何よ?」

 ・アナ

  「もう そろそろ
   おしっこしないと もれちゃうよ」

 ・和ばあ

  「いや、おしっこは
   さっきしてきたから 大丈夫」

 ・アナ

  「いやいや
   もう だいぶ時間たってる」

  ・ ・ ・

 ・アナ

  「ここで漏れちゃったら どうする?
   びしょびしょになっちゃうよ」

 ・和ばあ

  「ほっとけ!」

 ・アナ

  「おばあちゃん おばあちゃん」

 ・和ばあ

  「ほっとけっつってんの
    わかんねえな!」
  「あっち行けよ!」

  ・ ・ ・

という感じで難航してしまい、上手くいきません。

次は先生が和ばあさんをトイレに誘導します。

 ・先生

  「こんにちは」

 ・和ばあ

  「ん?」

 ・先生

  「△△と言います」

 ・和ばあ

  「△△さん?」

 ・先生

  「はい。
   お名前 よろしいですか?」

 ・和ばあ

  「私の名前?」

 ・先生

  「はい」

 ・和ばあ

  「×× 和って言うの」

 ・先生

  「あら、じゃあ
   和さんって お呼びして
    よろしいですか?」

 ・和ばあ

  「はい どうぞ」

 ・先生

  「私は △△と申します」

 ・和ばあ

  「うん はいよ。」

 ・先生

  「和さん 実はね ここにね
   西洋からに
    新しい お便所が来たんですよ」

 ・和ばあ

  「西洋…」

 ・先生

  「ここに 西洋から」

  ・ ・ ・
   (流れで和ばあさん
    その気になっちゃいました)

 ・先生

  「珍しいですよ」

 ・和ばあ

  「ふーん、じゃあ 行ってみっか?」

  ・ ・ ・

 ・先生

  「ねえ、これは
   実は 西洋から来た お便所」

  「これね こうやって座るんですよ」

 ・和ばあ

  「は~」

  ・ ・ ・

 ・先生

  「和ばあさん
   腰とか膝とか痛くないですか?」

 ・和ばあ

  「いてえんだよ」

 ・先生

  「痛いでしょ」

  ・ ・ ・

さすが先生です、いつの間にか大成功でした。

アルツハイマー型認知症の人はもの忘れがありますので、以前のことを覚えていません。

なので、会話を始める時は、そのたびに自己紹介をして、相手の名前を確認して、とやるんですね。

なかなか忍耐のいる作業かとも思いますが、その間に少しずつ打ち解けてくるようです。

話しているうちに、いつの間にかトイレに誘導してしまっていました。

そして、トイレの使い方もさりげなく教えていました。

でも毎回同じ手が使えるんでしょうか? とも思ったのですが、認知症の人のもの忘れを利用すると、結構毎回同じ手が使えるのかもしれません。

おまけ

上の実演を見ていて思い出したのが、アメリカの精神科医で催眠が天才的に上手なミルトン・エリクソンという人の話でした。

  エリクソン催眠誘導

  エリクソンという人

エリクソンという人の催眠誘導は、ごく普通の会話の中からいつの間にか催眠(トランス)に誘導してしまうという方法でした。

何気ない会話の持つ威力は凄いと感じます。

もしかしたら、毎日がお互い、知らず知らずのうちに相手を催眠暗示に誘導しあっているのかも、なんて思ってしまいます。

参考

  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり②[10章A] 生活支援・デイサービスへ行かない!)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり②[10章B] 生活支援・デイサービスへ行く!)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり②[10章C] 生活支援・生活環境)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり②[10章D] 生活支援・食事、排泄)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり②[10章E] 生活支援・姿勢と動作)

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。