放送大学・「認知症と生きる」第6章
認知症の人の行動と心理的特徴の理解①
認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴[6章A] 記憶、判断
講義内容の整理
認知症の人に共通してみられる症状(中核症状)と介護のための基本的考え方を、ここでは記憶障害、判断力障害および実行機能障害について見ていきます。
記憶障害は認知症の人のもの忘れについて、介護者はどのように対応すればいいのか。
判断力障害は、忘れてしまうことによって正しい判断ができなくなってしまうということに対して、どのような対応が望ましいのか。
実行機能障害とは何か、また何もできなくなるというわけではないので、できることとできないこととを分けて考える、などについて見ていきます。
記憶の障害・もの忘れとその対応
対応のポイント
★同じことを何度も聞かれた時
初めての質問のように答える
⇒結果的に、介護者も楽になる
認知症ではない一般の高齢者の場合は、昔のことも覚えてはいるがやっぱり新しいことの方をよく覚えています。
少し前に行ってきたばかりの場所を忘れるということは、めったにありません。
でも認知症の場合はこの直前のことを忘れてしまいます。
この物忘れは本人が頑張ればなんとかなるという性質のものではありません。
メモやノートに書いて覚えるということもあるかもしれませんが、本質的に忘れているということには変わりません。
なので介護する人のこの物忘れを責める言動は、良くない結果につながります。たとえば質問された時、
「だから・・・」
「さっきも言いましたが・・・」
「何度も言ってますが・・・」
・ ・ ・
という言い方は、認知症の人との人間関係を壊してしまいます。
認知症の人は初めて質問しているつもりなのに、「だから…」と返されると、「この人、どうして怒ってるんだろう?」という気持ちになってしまいます。
初めて質問された時のように、
「うどんですよ」
のように答えてあげるのが望ましい答えです。
ということで考えると、
★同じことを何度も聞かれるようになったら
認知症を疑ってみる
ことも必要になるのかもしれません。
判断力の障害・複雑な判断ができない
対応のポイント
★判断の材料はできるだけ少なく
× 何にしますか
〇 AとBどちらにしますか
人が何かを判断する時、記憶を頼りにして判断することが多いものです。
ところが認知症の人の場合は、この記憶に障害があるため思考の連続性がなくなっています。
たとえば過去の経験を思い出したとしても、過去の状況と現在の状況とを結びつけることが難しくなるため、複雑な思考ができなくなってしまいます。
なので、選択肢がたくさんあるものの中からひとつを選ぶということがとても難しくなってしまいます。
「今日は寒いのであたたかいうどんがいい」だとか、「肉が大事と聞いたから肉料理にしよう」などといったことを考えることが難しくなります。
でもふたつの中からどちらかを選ぶ、といった程度の判断なら可能です。
なので、質問するときはなるべく簡単にする方がいいでしょう。
「ごはんとうどん
どちらにしますか?」
実行機能の障害・手順が分からない
対応のポイント
★作業を分割して伝える
× 顔を洗ってきてください
〇(一緒に洗面所についていき)
蛇口を開けてください
顔を洗ってください
このタオルで顔を拭いてください
・ ・ ・
実行機能とは簡単に言えば、物事の手順を理解して行動するということです。
顔を洗う、お風呂に入る、料理を作るなど、言葉では簡単でも実行するにはいろいろな手順があります。
顔を洗うにも、洗面所に行って蛇口を開けて、顔を洗ってからタオルで顔を拭いて、などの手順です。
そして、これらのひとつひとつはできても、一連の手順が分からなくなってしまうことが、実行機能の障害と言われます。
認知症介護のプロフェッショナルとして番組「プロフェッショナル」で紹介された、大谷るみ子さんの言葉、
「全部して差し上げるのが
お世話ではなくて、
できるところをひき出してあげて
できないことだけを手伝ってあげる
ということが大事」
そして、
「馴染んだことなら
できることはたくさんある」
ともおっしゃっていました。
認知症の人一人ひとりのそれぞれが、できることとできないことを知り、できない部分を支援してあげるという姿勢が必要になるのかもしれません。
参考
(認知症と生きる 老化と認知症との違い[6章])
(認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴[6章A] 記憶、判断)
(認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴[6章B] 見当識障害)
(認知症と生きる 認知症の人に共通の特徴[6章C] 失認、失行)
(認知症と生きる 認知症の人に見られる症状[6章D] 問題行動など)