放送大学・「認知症と生きる」第4章
認知症の医学的な特徴③
認知症と生きる 認知症の医学的な特徴3[4章E] レビー小体型認知症
講義内容の整理
認知症を引き起こす病気の中で最も多いのが「アルツハイマー病」ですが、
日本では認知症として、アルツハイマー型認知症に次いで多いのが血管性認知症と言われていますが、欧米では「レビー小体型認知症」が2番目に多いのではないかと言われています。
レビー小体型認知症は、初老期や老年期に現れる進行性の認知機能低下で、パーキンソン症候も現れます。
レビー小体とは、パーキンソン病で認められる病理変化ですが、レビー小体型認知症の場合は大脳に広汎に現れます。
レビー小体型認知症
特徴
・緩徐な記憶障害の発症、
進行性の認知機能障害
・初老期ないし老年期に発症
・パーキンソンニスム
・注意や覚醒水準と関連した
認知機能の著明な変動
・幻視
・繰り返す転倒、失神発作、
一過性の意識消失、
向精神薬に対する過敏性、
系統的な妄想、
幻視以外の幻覚
このレビー小体型認知症の特徴では、アルツハイマー型認知症と同様に、記憶障害がゆっくりと始まることが多く、徐々に進行していきます。
発症するのは初老期あるいは老年期、50代後半、60代以降が多いです。
アルツハイマー型認知症と大きく異なる点は、「パーキンソンニスム」と言われる症状で、
固縮
動作が緩慢
などがみられることが特徴です。
また「注意や覚醒水準と関連した認知機能の著明な変動」とは、
認知症の症状が
変動する
ということで、いい時には日時や場所も答えられ、普通に会話もできていて、一見しっかりしているように見えますが、状態が悪くなると話がかみ合わなくなったり見当識も急に衰えてしまうといったように、その時々で状態が異なるのがレビー小体型認知症の特徴です。
幻視はレビー小体型認知症の場合に限るわけではありませんが、レビー小体型認知症の人の場合では高い確率でこの幻視の症状が現れます。
そして、80%ぐらいの人に「具体的な内容の幻視」がみられると言われます。
例として、
「知らない男の人が
家の中に入ってくる」
あるいは、
「子供がタンスの上に
座っている」
のような、かなり具体的な幻視があります。
幻視を見る人が診察室で、
「自分でも変だと思うんですが、
見えるんです」
と訴える人もいるとのことでした。
このような特徴的な幻視はレビー小体型認知症の特徴と言えます。
その他としては、パーキンソン症状だったり注意障害、さらに状態の変動によって転倒をくり返すなどがあります。転倒は発作による一過性の意識消失によるものと言えます。
あと、こうした幻視があるために「向精神薬」が使われてしまう結果、非常に副作用がでてしまうことがあったり、幻視と関連したその他の妄想や幻覚症状が出ることもレビー小体型認知症の特徴です。
パーキンソン症状にもみられる「レビー小体」の原因物質として、
α-シヌクレイン
という物質があり、これが大脳皮質にたまることで認知機能に障害が起きると言われています。
症例 | 77歳、女性 |
現病歴 | 1~2年前からもの忘れがみられる。また歩行時につまづきやすくなった。「庭に人影がみえる」という訴えがある。 最近になり、日によってしっかりしている時とやけにボケた様なとき、不活発になったりする時がある。検査のため入院となる。 |
経過 | 来院時、意識清明。礼節も保たれ「よろしくお願いします。」と本人から挨拶。しかし、入院翌日には「家に帰らなければ」と混乱がみられる。半年ほど前に向精神薬の副作用と思われる急激な歩行障害がみられる。 |
この例では、もの忘れということでアルツハイマー疑われますが、
・歩行時につまづきやすい
・庭に人影、の幻視
・日によってしっかりしたり
ボケたりする
・入院時:しっかり
翌日:混乱している
・過去に向精神薬が使われ
急激な歩行障害あり
これらの点から、典型的なレビー小体型認知症と判断されます。
前頭側頭葉変性症
アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症と比べて割合としては少ないですが、
前頭側頭葉変性症
というタイプの症状もあります。
特徴
・比較的若年(65歳以前)に
発症することが多い
・早期には記憶障害が目立たない
・脱抑制や反社会的行動、
自発性の低下、
無関心、常同行動、食行動異常など
特異的な問題行動・精神症状
画像検査
前頭葉と側頭葉前方部の萎縮
前頭葉と側頭葉に委縮をきたすタイプの認知症です。そして、前頭葉と側頭葉は言語や判断に関係します。
なので、初期には記憶障害は目立たず、脱抑制や反社会的行動などが現れてきます。
自発性の低下や無関心、万引き行為などを理由も罪悪感もなしに行うといったような症状を見せます。
また、毎朝同じコースを散歩したり同じメニューの食事をするなどの常同行動をとったりします。
症例 | 52歳、男性 |
現病歴 | 1年ぐらい前から仕事中にパソコンの前に座っているものの電源もいれずぼんやりしていることがあった。同じ頃、レストランで突然子供の食事に手を出したことがあった。また、同じビデオを何回も繰り返し見る、自分の陰部をさわるなどの行為がみられた。2ヶ月前より、職場の冷蔵庫から他人の物を飲んでしまう、スーパーで陳列品を食べてしまうなどの行動から家族とともに受信。 |
経過 | 上記の行動に対する質問に「いやー、特に」「わかりません」などと返答、他人事のような無関心な反応。考えようとしない。 改訂長谷川式簡易知能評価スケールでは29点。 |
いろいろな症状・行動が増えてはいますが、長谷川式簡易知能評価スケールではほぼ満点となっていました。
脳の血流シンチグラフィーの画像では、脳の前方の部分の血流が非常に低下していることが認められていました。
参考
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴3[4章A] 診断の進め方)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴3[4章B] 神経学的診断)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴3[4章C] 機能テスト)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴3[4章D] 血管性認知症)
(認知症と生きる 認知症の医学的な特徴3[4章E] レビー小体型認知症)