放送大学・「認知症と生きる」第7章
認知症の人の行動と心理的特徴の理解②
認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章A] 基本的理解
講義内容の整理
認知症の人がどんな状況にあるのかを、認知症の人の立場で考えるための章です。
従来は、ともすれば認知症の人というより、介護する人の立場で認知症を考えてきたという面もあり、認知症の人本人がどんな思いでいるのかの観点から再度見直すというものです。
たとえば一般には、高齢者に対して一律に
頑固だ
融通が利かない
などといった思い込みの傾向がありますが、
これらはどちらかと言えば、高齢者に限った話ではなく、
人それぞれの個性でもありますね。
この章では、じゃあ認知症になることで人はどんな状況になってしまうのか、ということを考えていきます。
認知症と性格の理解
高齢者は、「頑固」「柔軟性がない」「しつこい」などといった、高齢者に独特で共通の性格があるように思われたりすることがあります。
でも、こういう特徴は高齢者に限ったことではなく、誰にでもある特徴・性格でもあります。
若い人でも頑固な人はたくさんいます。
認知症の人は、「脳の障害」が原因で起こる病気なので、「性格」というものとは異なります。
なので、特定の性格の人が認知症になるということではありません。
特別な場合を除いて認知症になったことによる変化は、もともとの性格の他に
「新しいことを覚えられなくなる」
「判断力が鈍る」
「できたことができなくなる」
「時間や人、場所などが分からなくなる」
などが加わります。
つまり、それまで穏やかだった人がよく怒るようになった時、それは
認知症のため
怒りやすい性格になった?
とは限らないということです。
認知症のため何らかの障害が発生し、その結果怒りを感じる原因が発生したと考える方が自然かもしれません。
これまでのその人の理解
それぞれに異なる認知症の人を理解するとき、
その人が元々どんな生活をしていたのか、どんな性格だったのかを知ることがとても大事です。
家族などの周囲の人から、本人の生活史的な情報を基に考えていくことが大切になります。
もともと興奮しやすい人が興奮しているのか、それとももともと穏やかだった人が興奮しているのかということでも、その人への理解は異なってきます。
それによって、その人が適応した生活を送っているのか、適応できていないのかを知る手がかりになります。
この生活史的な情報のことを、
と表現している例もあります。その中では
その中身を知らなければ
認知症の介護はできません
ということでした。
喪失体験の理解
私たちは人生を通じて様々なものを獲得してきました。
それが高齢になるに従い、失うことの方がだんだん多くなってきます。
特に高齢者になると、社会的地位だったり収入だったり、
その他にも、役割、生きがい、友人、家族など、いったん獲得したはずの様々なものが失われていく
「喪失体験」
の中で生きることになります。
こうした中で、心穏やかに生きていくことはなかなか難しいことでしょう。
そこに「認知症」という病気が加わると、さらにより多くのものが失われることになります。
たとえば、今まで何をしていたのかという「記憶の喪失」がありますし、
それまで一緒にいた自分の周囲の人が
「知らない人」
に思えてしまったりしたときは、実際には家族に囲まれていたとしても、大きな喪失体験となり、
「自分の居場所」
の喪失感につながってしまうことでしょう。
こうした、認知症の人の状況を理解することは、とても大事なことと言えるでしょう。
参考
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章A] 基本的理解)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章B] 病気の理解)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章C] 心理的特徴)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章D] 行動の特徴)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章E] 段階別対応)