認知症と生きる、人とのかかわり③ 生認知症の人と権利・虐待の現場で

放送大学・「認知症と生きる」第11章

  認知症の人とのかかわり③ 認知症の人と権利
  認知症と生きる 認知症の人とのかかわり③[11章A] 虐待の現場で

講義内容の整理

この章は「認知症の人と権利」がテーマです。

認知症の人が、能力の衰えのために偏見を持たれ、差別・虐待されてしまうことを考える章です。

  認知症の人に対する差別や偏見を考えながら、
  その人の権利を擁護することの意義を解説し、
  在宅や施設に暮らす認知症の人への虐待、
  身体拘束などの倫理的な課題を学ぶ。さらには
  かかわりや支援のあり方を考察する。

最初は「劇団いくり」の「虐待」をテーマにした寸劇で、虐待の現場を考えようというものです。

劇団いくりは、認知症にかかわりのある看護師や介護職員で構成されていて、ここで紹介される虐待の事例は、実例をもとにしたものとのことです。

ここで、息子はおばあちゃんを虐待しようとしているわけではなく、おばあちゃんも決して息子のせいにはしないという関係性があります。

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お風呂でのかかわり

場面は茶の間、息子さんがおばあさん(母親)のためにお風呂の準備をしています。

・息子

  「あ~、いやいや
   今日は 早く帰ったからな
   お袋を ちょっと
   風呂に入れてやんねえとな」

  「あ~、よいしょよいしょ」

息子さん、「今日は久しぶりに風呂、入れてやっからよ」と言って、おばあさんに座って待っててもらいます。

そしてどうやらお風呂を沸かし終えたようです。

息子さん、おばあさんをお風呂に連れて行こうとして、おばあさんの手を取るのですが…

・息子

  「じゃあ ほら
   いつもの1・2の3で立つよ
   はい 1・2の3! うっ」

  「どうした? お袋 おいっ
   ほら 風呂だから
   1・2の3つったら立って」

  ・ ・ ・

  「なあ はい 手持って
   1・2の3! うっ

   なんで立たねえんだよ!」

  ・ ・ ・

  「立って風呂行くべよ なあ
   ほら 1・2の3! くっ」

  「何でこの足 動かねえんだよ!」

息子さん、思わずおばあさんの足を叩いてしまいました。

・おばあさん

  「何すんだよ!
   母ちゃんに向かって 何言うんだ」

・息子

  「何言うんだじゃねえだろ
   風呂入れるっつってんだよ」

・おばあさん

  「行かねえよ!」

・息子

  「行かねえよ じゃねえよ
   今しか入れねえんだから」

  「風呂だっつってっぺよ
   ほら いいから 来い!」

息子さん、力ずくでおばあさんをお風呂まで引っ張って行ってしまいました。

・おばあさん

  「行かねえっつってんの!」

  「誰か 助けてくれよ!」

  ・ ・ ・

次の日のデイサービスでの話です。職員さんがおばあさんのお世話をする場面です。

職員さんはおばあさんに椅子に座ってもらうよう勧めるのですが、おばあさん、不思議そうに椅子を撫でまわしています。

・職員さん

  「こっち向いてもらって
   ここに腰かけてちょうだい」

・おばあさん

  「あっ ここに座るの?」

・職員さん

  「よいしょっと」

職員さんがおばあさんの身体を支えて、椅子に座ってもらおうとしたのですが、その時おばあさんの手首に触ってしまったようです。

・おばあさん

  「あれ
   引っ張らないで」

・職員さん

  「あっ ごめんなさい
   お茶飲みましょうか?」

   はい お茶どうぞ
   あれ、大丈夫かな 和さん」

・おばあさん

  「うん これ おいしいやさ」

職員さん、おばあさんの手首に巻かれた包帯を目にして、おばあさんに問いただします。

・職員さん

  「これ どうしたの? 和さん」

・おばあさん

  「いやあ
   痛かねえから 触んねえで ねっ」

・職員さん

  「痛いの?」

・おばあさん

  「ううん 痛かねえ」

職員さん、おばあさんの手首の包帯に触れます。

  「痛いんだから
   触んじゃねえっつってんの!」

・職員さん

  「痛いの?」

・おばあさん

  「痛かねえよ」

  「あんまり
   大げさにすんじゃねえよ
   痛かねえんだもの なあ」

  「触んじゃねえよ」

おばあさんは必死で「痛くない」と言い張るのですが、どうやら職員さん、おばあさんの手首の異変に気づいたようです。

息子さんがこのことを知ってるのかどうか、おばあさんに聞いたのですが、

・おばあさん

  「いや うちの息子はな
   いい息子だよ
   よくやってくれるの」

職員さんにまた手首をさわられて、

・おばあさん

  「痛えからやんじゃねえ
   つってんの分かんねえの?」

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そろそろ体操の時間のようです。職員さん、おばあさんを体操の部屋に連れていこうとします。

・職員さん

  「そろそろ向こうで
   体操が始まるみたいなんで
   行ってみましょうかね」

   ・ ・ ・

  「和さん
   1・2の3で 立ち上がりますよ
   はい 1・2の3!」

  「1・2の3で
   ほれ お腰上げてください」

  「はい 1・2の3!」

おばあさん、どうしても立ち上がってくれません。すると職員さん、一計を案じます。

・職員さん

  「いや あの… あっちで
   今日 体操するんですけど
   今日の体操の先生は
   いい男なんだわね」

  「和さんの大好きな
   氷川きよしに似てんの」

・おばあさん

  「あれ 氷川きよし来てんの?」

あら不思議、おばあさん、あっという間に歩き始めました。

その日の夕方、息子の待つ家に、職員さんに連れられておばあさんが帰ってきます。

・息子

  「どうも お世話になりました」

・職員さん

  「息子さん すいません
   今日 ちょっと
   お時間よろしいでしょうか?」

職員さん、おばあさんの様子がいつもと違っていたので、おばあさんの家での様子を息子さんに聞きたいようです。

・職員さん

  「すいません うちのね
   デイサービスの方に来ていただいても

   ここに座りましょうか とか
   あちらに行きましょう
   って言っても なかなかね 行動が
   取れなくなってきているので、

   おうちでは どうですかね?」

息子さん、昨日おばあさんをお風呂に入れようとして、大騒ぎになってしまったことを話します。

そして、いつもは「1・2の3」と言えばすぐに立ったのに、昨日は何度やっても立たなかったんだ、ということも話しました。

職員さん、これで手首の包帯の理由が分かったようでした。そして、おばあさんがデイサービスで、息子さんのことを、「いい息子だ」といつも言っていることを教えてくれます。

・職員さん

  「いつも和さんは デイサービスの方で

   うちの息子は いい息子だ
   よく やってくれんだよ

   って お話してくれるんですよ」

   ・ ・ ・

・息子

  「いや 俺もよ この歳になるまで
   嫁ももらわねえでよ

   お袋は ぼけちまうしよ
   いや 独りでお袋の面倒見んのも
   いっぱい いっぱいだったよ」

  「そんなお袋がな
   俺のこと いい息子だ
   いい息子だっつってな…」

   ・ ・ ・

息子さん、おばあさんに「いい息子だ」と言われていたことを知って、泣き出してしまいました。

職員さんは、デイサービスでのサービスのことを息子さんに話してあげます。

・職員さん

  「まあね おうちでね
   とても大変なことも
   増えてると思いますけれども

   デイサービスの方で
   お風呂のサービスもできますし
   何かありましたら いつでも
   ご相談いただければと思います」

  「これからは
   私たちもそうですし
   ケアマネジャーさんも一緒に
   皆さんでお二人のこと
   支えていこうと思いますので、
   どうぞ よろしくお願いします」

   ・ ・ ・

息子さんが新聞を見たら、虐待でいちばん多いのは、「息子と夫」と書いてあったそうです。

・息子

  「うちのお袋は 俺のこと
   ヒマワリみてえに優しく
   太陽みてえに暖かく
   育ててくれました」

  「そんなお袋が どんどん
   お袋でなくなってくのを見るのが
   俺は 本当につらかったです」

そして、

  「実は 虐待されてる側だけが
   つらいんじゃなくて
   虐待してる俺らも
   本当に つらいんです」

ということでした。

この寸劇の後の、先生の言葉でも

  「このおばあさんのような
   認知症の人は

   それまでの長い人生の道のりを
   一歩一歩たどってきた
   人生の先輩です。

   このような老後は
   思いもよらなかったでしょう」

という解説がありました。この言葉も感じ入ってしまいました。

ここを受講して

すべてのデイサービスが、このお多福のようなデイサービスだったらいいなと感じるのですが、現実はなかなか理想通りにはいかないようです。

でも、ますますの高齢化社会の到来で、認知症に対する理解もますます深まるに違いないとは思います。

参考

(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり③[11章A] 認知症の人と人権・虐待の現場で)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり③[11章B] 認知症の人と人権・認知症と人権)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり③[11章C] 認知症の人と人権・偏見とイメージ)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり③[11章D] 認知症の人と人権・虐待と対応策)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり③[11章E] 認知症の人と人権・福岡宣言の後)

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