認知症と生きる、人とのかかわり④ コミュニケーション 手段

放送大学・「認知症と生きる」第12章

  認知症の人とのかかわり④ コミュニケーション
  認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章B] 手段

講義内容の整理

認知症の人とコミュニケーションをとるための手段として、

 1・共感すること

 2・かかわるケア

 3・リアリティオリエンテーション

ここでは「1・共感すること」、副題として

  「一本の足はその人の世界に、
   もう一本の足は自分自身に」

という内容に関して、事例を通して学びます。

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コミュニケーションの手段

「1.共感すること」(一本の足はその人の世界に、もう一本の足は自分自身に)の内容です。

  相手の内的な世界に完全に浸るのではなく、
  自己を維持しながら相手を観察し、聴くことが
  できるケア提供者は、認知症の人とよりよい
  関係を維持できるということにつながっていく。

  一本の足は認知症の世界におき、もう片方の
  足は自分自身の客観的な世界に置きながら、
  ケアをすすめていくことが必要である。

この共感の具体例が「認知症と生きる’15」のテキストにあります。引用させて頂きます。

ひとつは認知症の人の世界に二本の足とも入れてしまい、失敗した例です。そしてもうひとつは、片方の足を自分自身の世界に残して共感した例です。

具体例1

『エレベーターの前に79歳のOさんがたたずんでいます。「娘はまだかしら?早く帰らなくちゃ」とつぶやいています。そこに若い男性のケア提供者が「どうしたの?」と声を掛けました。「娘がね、来るのよ」と静かに返答され、ケア提供者は「そうですか?娘さんを待っているんですね」と。
「早く家に帰りたいのよ。娘と、家に帰りたいのよ」とエレベーターの前から動かないOさんをケア提供者はじっと見つめていましたが、そのうち一緒にエレベーター前のソファに座ることを勧めました。
その後は、2人とも頭をうなだれながらじっとエレベーターの前にいました。「そうですよねぇ。来ませんね」とポツンと彼がつぶやきました。』

  (放送大学教材 「認知症と生きる’15」より)

このケア提供者は認知症の人の世界に足を置いたのですが、Oさんと一緒になって、娘さんを待ち続けてしまいました。

そこでこのケア提供者に「共感する」ということの意味を理解してもらい、再度挑戦してもらった例です。

Oさんはたびたびエレベーターの前で娘さんを待っているので、再び挑戦ができました。

具体例2

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『エレベーターの前に向かって歩いているOさんを見かけたら、その若い男性のケア提供者が「今日はきれいですね。お出かけですか?」。
「きれいですね」と言われたおばあさん。女性であればうれしいですから、「いや別に。ふふふ」とてれ笑いをしました。
「きれいだから言ってみたんだけど、どこかお出かけですか?」。「いや別に。娘が来るかもしれないの」。
「ああ、娘が来るかもしれないの? 今日? 午前中? 午後? 今日来るの?」とケア提供者は話をしました。
するとOさんは「午前かどうかは分からないけど、来るかもしれないから」。
そこでケア提供者が共感をしました。「楽しみですね」。おばあさんが娘さんを待つ気持ちを「楽しみですね」という感情に置き換えておばあさんに返答しました。
「ここ隣 座ってもいいですか? 大丈夫ですか?」。おばあさんは「楽しみですね」と言われたので、表情がパッと明るくなって「うん」と返事をしました。
そしてケア提供者は「ご家族はどんな人なんですか?」と聞くと、Oさんは嬉しそうな表情で「娘はいい子なんだよ」と、おばあさんの表情が変わりました。』

  (放送大学 「認知症と生きる’15」より)

そして、おばあさんの表情が変わったという挑戦の実践例でした。

この部分を受講して

この「共感する」というのはかなり難しい技術のように感じます。

そして、この「共感」ができるようになるためには、かなりの練習あるいは訓練が必要な気がします。

私が自己啓発として聞いた話に、石井裕之さんという方の話がありました。そこでは、少年時代の石井さんに何と声を掛けてあげるか? ということで、聴いていた皆さんが挑戦したのですが、なかなか… という話でした。

かなりカットしてありますが、ざっと次のような内容でした。

  少年はネイティブの英語の勉強がしたくて
  紀伊国屋書店の洋書コーナーに行き、
  ペーパーバックの本を買いました。

  100ページなので、1日10ページで
  10日あれば読み切れるなと思いました。

  そして読み始めたところが、
  あんなに頑張ったのに、
  1か月で3ページしか読めませんでした。

  「やっぱり俺には英語は無理なんだろうか?」

と落ち込んでいる石井少年に、あなたなら何と声を掛けてあげますか?

聞いている人が答えてくれた例は、

  3ページも読めたのは
   すごいじゃないですか

  すごいですね、その発想は

  1ページを覚えるまで読みなさい

  1か月も毎日読むなんてすごい

  私も同じようなことをしようと
   したのですがダメでした

などだったのですが、これらはみんな石井少年の話にかかわっているとは言えないということでした。

言うなれば、石井少年の話を外から見て評価しているという、いわば「上から目線」での話ということでした。

正解?とされたされた答は

  「それ、どんな本だったの?」

ということでした。

石井さんによれば、

  「初めて入った洋書コーナーで
   ペーパーバックの匂い、
   周囲は外人ばかりの中に
    入る時のドキドキ感
    ワクワク感
   一生懸命読んだ3ページの
    内容
   そんなドラマを聞いて欲しい!」

ということでした。

エレベータの前のおばあさんに、

  「楽しみですね!」

と声を掛けられるような人なら、これができるんでしょうね。でもかなりのトレーニングが必要な気もします。

参考

  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章A] コミュニケーション・あり方)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章B] コミュニケーション・手段)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章C] コミュニケーション・技術)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章D] コミュニケーション・事例)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章E] コミュニケーション・実践)

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