放送大学・「認知症と生きる」第12章
認知症の人とのかかわり④ コミュニケーション
認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章D] 事例
講義内容の整理
認知症と関わる際の方法のひとつとして、リアリティオリエンテーションと呼ばれる方法があります。
これは、認知症の人が
今がいつ?
ここはどこ?
といったことがだんだん分からなくなってしまうことで、不安になるとともに、コミュニケーションをとることも難しくなってきてしまいます。
そこで、日常の会話の中で、
もうすぐ3時です
おやつの時間ですね。
のように、「今」がいつなのかを伝えていく方法です。
リアリティオリエンテーション
リアリティオリエンテーションの「RO」とは、「現実認識」(今を伝える)という意味です。
そしてこのROは、見当識障害があって、「今がいつか」、「ここがどこか」が分からなくなってしまった人とコミュニケーションをとる時に「今」を伝えていく方法です。
認知症の人に穏やかに暮らしてもらうためには、会話を通じて1日の時間の流れを随時伝えることが必要になります。
これがリアリティオリエンテーション(RO)と言われます。
このリアリティオリエンテーションは、1960年代半ばに、アラバマ州の「退役軍人管理局病院」で始められて、その後広く普及した方法です。
認知障害や見当識障害といった障害によって、現実から遠ざかってしまいそうな認知症の人に、「現実」に戻ってもらおうとして「今」を伝えようというものです。
ケア提供者が1日の時間の流れを随時伝えることを、「24時間オリエンテーション」といいます。
認知症の人は記憶障害があるために、「いま10時ですよ」と言っても、その時は分かっても5分後にはまた忘れてしまいます。
そのために24時間リアリティオリエンテーションというやり方が役立ちます。
この24時間オリエンテーションを通じて、その時々の「季節」「日にち」「時刻」を認知症の人に伝えることで、「今」に気づいてもらいます。
その具体的方法は次の図の通りです。
最初の挨拶と自己紹介で、認知症の人が話す相手が誰なのかを知らせ、自分が誰なのかも知ってもらいます。
そして日付、天気、季節などの話をすることで、「今」がいつなのかを分かってもらって、その話を広げます。
ただし注意事項として、質問の際は相手のレベルに応じた質問にします。
認知症が進行している人には、「はい」「いいえ」で答えられる「閉ざされた質問」が向いているかもしれませんが、それほど進行していない場合は「開かれた質問」の方がいいかもしれません。
そして、
今日は何月何日でしょうか?
私が誰か分かりますか?
などの質問はしてはいけない質問です。本人を不快な気分にさせてしまいます。
また、答を間違えた時に、「間違い」と指摘することもしてはいけないことです。
リアリティオリエンテーション事例
茨城県にある「お多福」というデイサービスセンターでのリアリティオリエンテーションの例です。
・スタッフ
「おはようございます
皆さん、今日の天気は
何だか曇りのようで
昨日まで雨が降っていましたが、
今日は雨が少し休まるみたいです」
スタッフの方が大きな日めくりカレンダーを、利用者の人たちに見せてあげます。
「今日も日付の確認からします
今日は平成の…」
その後、「今日は何の日か?」というのを調べて利用者の人に教えてあげたりしていました。
こんな感じで、天気の話から今日が何月何日か、さらには今日が何の日かといった話などで1日を始めていました。
また「ゲームの時間」もあります。
カゴの上に何かモノが乗っていますが、タオルで隠されているため見えません。
中に入っているものはいったい何か、を当てるのがゲームなんですが、利用者の皆さん興味深々でそれを手で触ったり、匂いを嗅いだりしています。
「固い?
ミカン?
ユズ?
果物かな?
においする?」
盛り上がったところで、正解の発表です。
・スタッフ
「じゃーん
じゃが芋でした」
このじゃが芋ですが、このデイサービスセンターの隣には保育所が併設されていて、そこの子供たちと芋掘りをした時の芋でした。
利用者の方は、懐かしく思っていたでしょうか? それとももう忘れてしまっていたでしょうか?
さらにスタッフの方が
・スタッフ
「新じゃがといったら
今年とれたやつ
普通のジャガイモといったら
今年じゃなく去年とかに
とれたものを指すみたいです」
と、じゃが芋の解説をしてくれていました。
さらに、「新じゃがと昔のジャガイモで調理の仕方も違う」ということで、カレーや肉じゃがなどの話をしたところで、
・スタッフ
「今日は ジャガイモは
肉じゃががでます!」
とのことでした。
参考
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章A] コミュニケーション・あり方)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章B] コミュニケーション・手段)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章C] コミュニケーション・技術)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章D] コミュニケーション・事例)
(認知症と生きる 認知症の人とのかかわり④[12章E] コミュニケーション・実践)