認知症と生きる、人とのかかわり① 認知症ケアの歴史

放送大学・「認知症と生きる」第9章

  認知症の人とのかかわり①
  認知症と生きる 認知症の人とのかかわり①[9章B] 認知症ケアの歴史

講義内容の整理

明治初期までの日本では、認知症のような病気に対する制度的なものはまだ存在していなくて、

座敷牢、神社、寺院といったところに収容されていたのでした。

ようやく明治の初期、明治8年に、日本で初めての公立の精神科病院として、

  京都癲狂院(てんきょういん)

が設立されました。

でもそこでは、

  病人を殴る、縛る、
  食事を与えない、
  家族へ何かを要求する

という介護者がいました。

そんな日本の認知症ケアの歴史です。

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ケアなきケアの時代

日本で初めての高齢者福祉に関わる施策は、

  昭和38年(1963年)の
  「老人福祉法」

で、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、特別養護老人ホームという施設が体系化されました。

でも、まだ認知症の人の実態については、ほとんど把握されていませんでした。

そんな老人ホームでの話として、

  「ルポ有料老人ホーム」

の一節です。認知症の母親を老人病院入院後13日目で亡くした家族の手記です。

ある日、母の手首、足首が赤紫のアザになっています。
ベッドの四すみに白いもめんの帯ひもがむすんでありました。
私は近くにいたお婆さんに聞きました。
するとその人の言うには「このおばあさんは夜中にトイレに
行くと帰りがわからなくなって、よその人のベッドに寝ていて
怒られて、それからオシメになったんだ。
夜は歩けないように縛られてる」…中略…
すると母の目から涙がとめどなく出るのです。
私が「どうして泣くの」と聞きますと、母は「涙はいっぱい
あります」と言いました。
・・・・あの病院は今思うと地獄の一丁目です。

医療現場でもまだ認知症が鑑別されてなく、ケアの根拠、方法などもない頃でした。

大きな声を出したり、暴力をしたりする認知症の人の行動を抑制するため、縛ったり、鉄格子のある部屋に入れたり、薬で抑えたり、言葉での抑制だったりという、

  「魔の3ロック」
  (フィジカルロック、ドラッグロック、スピークロック)

が行われていた時代でした。

認知症の人にとっては、非常に恐ろしい出来事だったと思われます。

1972年、有吉佐和子さんの「恍惚の人」が映画化されたころのことでした。

1973年に東京都で、日本で初めての認知症の人の調査が行われたのでした。

 ●1973年の「在宅痴呆性老人に関する精神医学
  的実態調査」(東京都)この調査を受け、在宅の
  認知症高齢者は約15%と推計された

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  厚生省(現厚生労働省)は
  1986年「痴呆性老人対策推進本部」を設置
  1988年「痴呆性老人専門治療病棟」を発足
  1989年「老人性痴呆疾患センター」を開設  

東京都の調査を皮切りに、全国で実態調査が行われ、認知症に対しての介護の問題が明らかになってきました。

そして、認知症高齢者を短期的に集中的に治療・介護する専門病棟を整備することになりました。

認知症高齢者を抱える家族にとって、大きな救済場所となる施設が徐々にできてきました。

認知症ケアの変遷

各種の調査等によって、認知症ケアの考え方が徐々に変化してきます。

先駆的個別的な認知症ケアの例として、岡山県の

  「きのこエスポアール病院」

があります。そこでは1984年の段階で既に、

  認知症老人専門治療病棟

を開設しました。

これは国が1988年に指定した内容とほぼ同じものとなっています。

その病院では早い段階から「機能性精神疾患との違い」を指摘し、日常生活の質を高める工夫をするなど、

現在でもさまざまな先駆的認知症ケアを進めています。

1990年代のデイサービス、グループホームなどの拡充で、

  環境
  関わりのあり方
  暮らしの継続

などの重要性が認識されるようになりました。

生活環境では

  家庭的なたたずまいと
   雰囲気

に配慮し、認知症の人に寄り添った関わりを持つという方針、つまり、

  介護者優先のケア

から、

  ひとりひとりの
   尊厳を支えるケア

へと大きく変化してきました。

このころから、認知症高齢者を「縛る」などの身体拘束が

  人権問題

として大きく取り上げられるようになってきました。

当時は、「ベッドから勝手に降りるから体幹拘束」、「足元がふらつくから安全ベルト」などの拘束用の道具だけでなく、紐で腕と柵を縛るなどがまだまだ行われていました。

参考

  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり①[9章A] デイサービスセンターで)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり①[9章B] 認知症ケアの歴史)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり①[9章C] 認知症ケア福岡宣言)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり①[9章D] 認知症の支援施策)
  (認知症と生きる 認知症の人とのかかわり①[9章E] 認知症ケアクリニック)

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