放送大学・「認知症と生きる」第8章
認知症の人の行動と心理的特徴の理解③
認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章D] 心理症状
講義内容の整理
認知症の人の心理症状には、「妄想」「幻覚」「抑うつ」「不眠」「不安」などがあります。
妄想は「被害妄想」などでとても多く、特に「物盗られ妄想」は臨床の場面では約4分の3がそうだと言われるほどです。
ちなみに、妄想は勘違いと似てはいますが、勘違いはそれが誤りだったことが分かったところで訂正ができますが、妄想の場合は事実と思い込んでいるため訂正ができません。
ここでは、
物盗られ妄想
見捨てられ妄想
嫉妬妄想
について見ていきたいと思います。
物盗られ妄想
妄想は脳の障害が原因ということもありますが、慢性的な疾患だったり、孤独感・疎外感・不安感などの心理的な要因で発生することも多いと言われます。
そして妄想が起こるとケアに対する拒否反応などが出てしまったりするので、対応が難しい症状のひとつと考えられています。
被害妄想の中でも最もよくみられるのは、
物盗られ妄想
です。
お金や預金通帳、印鑑などいろいろなものを盗まれたと訴えるようになります。
認知症で将来の不安がいっぱいの中、頼りになるのはお金と感じるのは誰もが同じかと思われます。
そんな時、
財布(お金)が見つからない
ということは、とても不安なことなのでしょう。
その不安感が「物盗られ妄想」につながっているとも言えます。
物盗られ妄想の場合、自分がしまった場所だけでなく、しまったという体験そのものまで忘れてしまうために起こります。
多くは介護者などの身近な人が疑われてしまう結果となります。
こんな時、ムキになって否定することは逆効果になることも多いものです。
認知症の人の不安に共感し、一緒に探す方向で話を進めることが望ましいところです。
ただし基本的には介護者が疑われていますので、見つけたとしても
ここにありましたよ
などと言ってしまうと、かえって疑いが強くなってしまったりすることがあります。
こんな時は
~は探しましたか?
などと言って、本人に見つけてもらうことが最も望ましいですね。
これは本人の自信にもなります。
また、
お金が無くなったと思う時、本人にしてみれば
配偶者は亡くなった
兄弟も亡くなってしまった
自分の能力も徐々に失われている
財産も徐々に減ってきた
・・・
という、不安でいっぱいの中での
お金が無くなった
という事実を考えると、その不安感は並大抵のものではない、と言う方もいました。
本人の不安感に寄り添うことの重要さが感じられると思います。
見捨てられ妄想
見捨てられ妄想は、施設の中などの場合は
誰も迎えに来てくれない
などと言った訴えで分かる場合もありますし、自宅の場合では、
夕方に家族が
買い物に出かけてしまった
などという時に妄想的になってしまうこともあります。
見捨てられ妄想は、
ここが自分の
居場所ではない
と感じたり、
周囲が
知らない人ばかり
と感じた時などで、
自分がひとり
取り残されている
と感じる不安などが背景にあると考えられています。
なので、これもやはり認知症の人の不安を解消することを図るのが、ケアの中心となります。
長期的には、その人の周囲の環境を整え、居場所を作ってあげることや、何らかの役割を持ってもらうことなど、生活の質を高めることが本来の方策と言えるでしょう。
ある人の話では、
施設にいる認知症の人に
家族が電話でレシピを教えてもらった
ということがきっかけで、この認知症の人の妄想が消えたという例もありました。
嫉妬妄想
認知症の人にみられる嫉妬妄想は、配偶者に対するものが多く、妻あるいは夫が不倫しているのではないかと確信してしまう症状です。
事実ではない場合でも、本人は確信していて、訂正することは困難です。
見捨てられ妄想や嫉妬妄想は、自分が取り残されるのではないか、という不安が根底にあり、
この不安などの基本的心理に対するケアが必要になってきます。
たとえば認知症の人を置いて、一人で出かける場合などは、こっそり出かけるのではなく、
きちんと説明して、出かける理由などを紙に書いておくことなどが有効なことが多いようです。
幻覚の理解とその対応
幻覚は、幻聴や幻臭などもありますが、その多くは実際にはないものが見える「幻視」です。
さらに幻視の中でも一般的なのは、
部屋の中のカーテンのところに
誰か人がいる!
というような、現実にはいない人のことで、認知症の人をひどく怯えさせたりします。
そしてその多くは、何かを見間違えたり誤認であったりすることが多く、部屋の明かりを明るくしたら解消したということもあります。
ところで、「誤認」というのは見えたものを誤って認識する「知覚錯誤」と言われていますが、「幻視」は外部の刺激なしに見えてしまうものです。でも認知症の人本人には実際に見えているものです。
そして、この幻視はレビー小体型認知症では80%の確率で現れると言われています。
「誤認」は時間とともに忘れてしまいますが、「幻視」の場合はその内容をよく覚えているということも特徴的です。
ハンガーに掛けてある洋服や壁のしみが人の顔に見えたりする錯覚を
パレイドリア
と言いますが、レビー小体型認知症の人はパレイドリアが起こりやすいことも知られています。
なので、レビー小体型認知症の人の場合は、洋服をハンガーに掛けておかない、こたつの前にぬいぐるみを置かないなどの注意が必要になったりします。
実際にはないものが見えているのですが、そのことを伝えても認知症の人は納得はしません。
幻視によって認知症の人が怯えているという事実に対してのケアを考えるということが大切になります。
参考
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章A] 捉え方)
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章B] 基本的考え方)
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章C] 行動症状)
(認知症と生きる 認知症の人の様々な行動の特徴[8章D] 心理症状)