認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4、中核症状薬

放送大学・「認知症と生きる」第5章

  認知症の医学的な特徴④
  認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章B] 中核症状薬

講義内容の整理

認知症の中核症状(多くの人に共通してみられる症状)に対する薬は、

  コリンエステラーゼ阻害剤

  メマンチン

の2種類しか現在のところありません。コリンエステラーゼ阻害剤としては、

ドネペジル
リバスチグミン
ガランタミン

の3種だけが世界的にも承認されています。

ここではコリンエステラーゼ阻害剤とメマンチンの作用の仕組みが中心の話です。

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コリンエステラーゼ阻害剤の作用の仕組み

下記はコリンエステラーゼ阻害剤の作用に関する仕組みの図です。

この図は脳の神経細胞の末端のイメージです。

脳の中にはアドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニンなどのいろいろな神経伝達物質がありますが、アセチルコリンは、神経伝達物質の中でも知的機能と深く関係している神経伝達物質です。

神経細胞の末端で神経細胞が興奮するとアセチルコリンが分泌されて、隣の細胞に移って行きます。

上の図の例では、左側の細胞が興奮すると、そこからアセチルコリンが分泌されて、右側の細胞に入っていくことで情報の伝達が行われます。

図の一番上が正常な人の場合で、中心が認知症の人の場合、下は認知症の人がコリンエステラーゼ阻害剤を使用した場合の図です。

ちなみに、神経と神経との間のことは医学的に「シナプス」と呼ばれています。

正常な人だと、左側の神経細胞が興奮してアセチルコリンが分泌されて右側の細胞に入っていくことで情報が伝達されますが、

この時、途中で余分なアセチルコリンがたまり過ぎないように、コリンエステラーゼという酵素が余分なアセチルコリンを分解します。

感覚的にはアクセルとブレーキで脳内の働きを常に調整しているという感じでしょうか。

ところが認知症の人の場合だと、脳内の細胞の数も減少し、ひとつひとつの細胞の機能も低下してしまっています。(図の中央部分)

これがつまり、脳の働きが低下してしまったということになります。

そこで、このブレーキ役のコリンエステラーゼの働きを弱めることで、少なくなってしまったアセチルコリンを隣の細胞に効率よく伝達させようという役目の薬が

  コリンエステラーゼ阻害剤

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ということです。(図の一番下の部分)

コリンエステラーゼ阻害剤はアセチルコリンを分解する酵素のコリンエステラーゼと結合して、コリンエステラーゼの働きを弱めてしまいます。

これによって、アセチルコリンが分解されずに隣の細胞に伝達されることになります。

その結果脳内の情報伝達が再び活発に行われるようになり、認知症の症状が緩和されることになります。

ただし、このことから分かるように、コリンエステラーゼ阻害剤は、脳の神経細胞の減少自体を食い止めるわけではなく、

あくまで症状を緩和する、症状の進行を緩やかにするという役目であり、根本的な治療薬ということではありません。

メマンチンの作用の仕組み

脳内伝達物質としてはアセチルコリンだけではなく

  グルタミン酸

も重要な神経伝達物質のひとつです。

神経伝達物質には神経を抑制するタイプと興奮させるタイプがありますが、グルタミン酸は興奮させるタイプの方です。

神経が興奮した時に出る、このグルタミン酸が結合する場所が

  NMDA受容体

というものです。

このNMDA受容体は通常は活性化されているわけではありませんが、アルツハイマー型認知症では必要以上に活性化されています。

脳の神経細胞が必要以上に脳内神経伝達物質を取り込み過ぎることで、脳に悪影響を及ぼしてしまうことになります。

そして、このNMDA受容体の活性化を押さえる役割の薬がメマンチンです。

ただし、メマンチンもコリンエステラーゼ阻害剤と同様、神経細胞自体が徐々に減っていくことを食い止めることはできません。

参考

  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章A] 治療薬の概要)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章B] 中核症状薬)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章C] 認知症薬の効果)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章D] 認知症の進展)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章E] 周辺症状薬)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章F] 非薬物療法)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章G] 周辺症状と薬物療法)

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