認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4、非薬物療法

放送大学・「認知症と生きる」第5章

  認知症の医学的な特徴④
  認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章F] 非薬物療法

講義内容の整理

認知症の治療は薬だけということではありません。

記憶障害などの中核症状と、それによって引き起こされる徘徊や妄想などの周辺症状に分けた時、

周辺症状に対しては薬物を使わない療法はたくさんあります。

そして周辺症状に対して推奨されるのは、

  まずは「非薬物療法」

ということです。

非薬物療法ではどうしても効果がない、あるいは緊急を要する事態であるといった場合に初めて薬物療法を試みるということが大事なことになります。

ここでは非薬物療法についての話です。

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主な非薬物療法

非薬物療法にもとても多くの種類がありますが、主として使用されているものの一覧が下記です。

 主な非薬物療法

 ・環境整備 Improvement of living environment
 ・回想法  Life review
 ・現実見当識療法 Reality orientation training:ROT
 ・認知リハビリテーション Cognitive rehabilitation
   ●計算、書き取り、音読、ゲームなど
   ●絵画、園芸、手芸など
 ・リハビリテーション Rehabilitation
   ●日常生活活動療法 ADL therapy
   ●作業活動療法 Occupational therapy
   ●運動療法:有酸素運動など
 ・バリデーション療法 Validation therapy
 ・音楽療法 Music therapy
 ・芸術療法(絵画、陶芸など)、ペット療法など

環境整備は、家族が認知症についての理解を深めたり、デイケア、デイサービスなどを利用できる環境を作ることなどです。

回想法は、昔の懐かしい想い出を語り合うことで脳を刺激し認知機能を強化すると同時に、もっと人とコミュニケーションを取りたいという気持ちにさせることなどが目的です。

現実見当識療法(リアリティー・オリエンテーション)では、「もうすぐ3時なのでおやつにしましょう」のような、「いつ」に関する言葉を挟むことで脳の認知機能を刺激します。
このためにカレンダーや時計などを使うとより効果的になります。

認知リハビリテーションでは、ゲームだったり手芸だったりを通じて脳を刺激し、認知機能を強化することを目的としています。

これらは、結果として精神的、心理的な安定にもつながると言われています。

リハビリテーションは一般のリハビリテーションと同じで、日常的な動作や作業療法、運動療法などを通して気分転換が図られるでしょう。

バリデーション療法は、認知症の人の言った言葉を確認・認識することで安心してもらい、会話を続けることで精神的な安定につなげる方法です。
たとえば認知症の人が怖がっている場合、「怖いんですね」「大変ですね」と共感して接します。「どうして怖いんですか?」のような理由を尋ねたりはしません。
場合によってはスキンシップのアプローチも必要かもしれません。

あとは音楽を聞いたり、絵画や芸術を取り入れた療法も非薬物療法として利用されます。

非薬物療法の期待される効果

こうした非薬物療法によってどのような効果が期待されるのかが下記です。

非薬物療法の期待される効果

  ・問題行動、精神症状の軽減・予防
  ・残存機能の維持
  ・対人交流の促進
  ・情緒の安定
  ・意欲の向上

 ⇒2次的な知的機能の改善
  介護負担の軽減

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非薬物療法は、以前は中核症状に対する改善効果の期待もあったのですが、現在では「問題行動」あるいは「精神症状」などの、

  周辺症状の軽減・予防

への期待とされています。

残存機能の維持に関しては一部中核症状にも関係しています。

さらには対人交流の促進、そのためにも情緒の安定、意欲の向上などが期待されます。

その結果として、2次的な知的機能の改善、例えば

  興奮している人が
  気分が穏やかになる

ことによって、長谷川式簡易知能評価のスコアが良くなることは十分あり得ます。
さらには、このことによって、周囲の人の介護負担も軽減することになります。

まず非薬物療法を検討

認知症の周辺症状に対しては、まず非薬物療法を検討し、効果不十分な場合や緊急を要する場合に初めて薬物療法を検討します。

  BPSDが高度で、患者や周囲に危害が及ぶ
  危険性がある場合は薬物療法を考慮

そして、向精神薬を投与する場合の注意点

 ・非薬物的介入と組み合わせる
 ・薬物治療の利点と危険性の検討を十分行う
 ・(医師は)上記を十分に説明し、

   本人ないし介護者から同意を得る
 ・認知機能や標的症状の定期的な評価を行う
 ・少量より開始する
 ・期間を限定し、
   定期的(3ヶ月ごとなど)に治療を見直す
 ・転倒、骨折に注意する

非薬物療法だけではどうしても効果がなかったり、時には暴力などがあったりする場合、本人だけではなく周囲にも危険があって緊急を要する場合ということになったところで、初めて薬物療法が考慮されることになります。

ただし現実の医療では、しばしば安易に薬物療法が使われてしまうという現状があることも確かです。
これは欧米でも問題となっていることです。

しかし、周辺症状・BPSDに対しては、まずは非薬物的な介入から始め、それでも効果がなかったり緊急を要する場合に初めて薬物療法が行われることが原則です。

そして薬物療法を行う場合、それまで行っていた非薬物療法も並行して続けることが必要です。

そして、医師は薬物療法の利点と危険性、いわゆる副作用を十分に検討し、本人や介護する人にも十分理解してもらう必要があります。

そして薬は出しっぱなしではなく、認知機能や標的となる症状の定期的な評価を行うことも大切なことです。

また、高齢の人は若い人よりも薬が体内にたまりやすいので、少量(1/3から半分程度)から開始することも大事なことです。

その上で、期間を限定して(3ヶ月ごと)治療を見直し、薬を止められないかを評価します。

また、向精神薬には鎮静作用があるので、転倒・骨折に注意をするなど、注意深く行っていく必要があります。

ただし、周辺症状・BPSDに対して正式に承認されている薬はないのが現実です。

それでも、実際の医療現場では90%以上が認知症の人に何らかの向精神薬を投与しているということも現実のようです。

参考

  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章A] 治療薬の概要)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章B] 中核症状薬)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章C] 認知症薬の効果)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章D] 認知症の進展)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章E] 周辺症状薬)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章F] 非薬物療法)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴4[5章G] 周辺症状と薬物療法)

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