放送大学・「認知症と生きる」第7章
認知症の人の行動と心理的特徴の理解②
認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章D] 行動の特徴
講義内容の整理
健康な人にとってみると、認知症の人の行動は一見不可解に見えることがあります。
近所の人とは普通に挨拶ができるのに、家族とはうまく話ができないなどといったこともあります。
こういったことについて、次の3つの観点から考えていきます。
・取り繕う行動
・自分を守ろうとする行動
・行動は認知症の人のサイン
取り繕う行動
私たちでも、顔は覚えていても誰だったかを思い出せない人と会うことがあります。
そんな時、相手の人から
「こんにちは、
暑くてイヤになりますね」
などと声を掛けられたら、
「ほんとですね、
暑くて大変です」
などとそつなく返事をすることがあります。
これは、自分との関係性の遠い人が相手なのでそつなく会話を進めることができるのですね。
認知症の人の場合で、相手の人がよく思い出せない場合でも、こんな感じで場を取り繕いながら自然に会話を進めることはできます。
ところが自分の身近な人、たとえば家族などが相手だと、
さっきの電話、誰から?
などと、取り繕うことが難しい会話が増えてきます。逆に、
電話なんてかかってこないよ!
なんて怒ったりしてしまうかもしれません。
近所の人のように関係性の遠い相手だと、長年身につけた「あいさつ」という社交辞令でこなすことができても、
関係性の近い人が相手の場合は、話の内容がより具体的で込み入ってくるため、社交辞令ではすまなくなってきます。
そして「取り繕う」ことができなくなったときに「つじつま」を合わせるための
作話(作り話)
をすることになります。
自分を守ろうとする行動(作話)
認知症の人はよく作り話をすると言われます。そしてその話はとても真実味を帯びています。
知らない人が聞くと、真実のように感じます。
どうして作り話をするようになるのでしょうか?
人はたとえばテレビのドラマなどを見ている時、突然電話などで見れなかった場面などを、前後のストーリーから、想像でその内容を補うという傾向があります。
ただ、普通の人の場合は自分で想像したことだということを覚えています。
また一般の人の場合は、朝の出勤のための一連の動作の流れだったり、
夕食を作るための、買い物からの一連の流れなどはそれぞれつながっています。
ところが認知症の人の場合は、断片的な記憶の欠落が生じてしまうため、
その欠落した部分を想像で補おうとしてしまいます。
そのため、身の回りの人に聞かれたりすると、想像で補った内容を話してしまうことになります。
これが「作話」ということですね。
つまり、
作話は
取り繕う行動の一部
ということになります。
そして、この取り繕う行動の結果としての作話は、たいての場合は
自分に都合のいい話
になります。
さらにこの作話の内容は、本人の中では真実のことです。
なので、この作話の内容を「嘘をついてる」と指摘されることは、本人には理不尽な言いがかりに思えてしまいます。
ということで、認知症の人は家族からさえこういった理不尽な言葉を常に投げかけられているような感覚の中にいる、ということを理解することが必要でしょう。
行動は認知症の人のサイン
病気の進行に伴って、認知症の人が言葉で自分の思いを伝えることができなくなるため、
代わって、行動でその思いを伝えようとすることになると思われます。
周囲の人にとって不可解と思える行動でも、本人にとっては何らかの意味のある行動だと考えるべきですね。
認知症の人の行動は、周囲の人たちに対してのメッセージと捉えて、よく観察してあげる必要があると思われます。
おまけ
取り繕いのために、欠落した記憶を想像で補うという行動は、人間の一般的な行動のように思えます。
きっと、この心理を上手に利用したのが「テーブルマジック」なのではないかと思います。
間違いなくあったはずのコインが
突然、消えた!
参考
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章A] 基本的理解)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章B] 病気の理解)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章C] 心理的特徴)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章D] 行動の特徴)
(認知症と生きる 認知症の人の心理的問題の理解[7章E] 段階別対応)