放送大学・「認知症と生きる」第13章
当事者から見る認知症 本人編3
認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章D] 本人編3
講義内容の整理
認知症とは言っても、その症状は人によって様々です。
なので、みんながみんな同じということではありませんが、
認知症の人がどのようにして自分が認知症だと気づくのか、そしてその時どのように感じ、また考えるのかといったことを知るためには、個人的な経験を知ることも大事なことと言えます。
ここでは、若年認知症のご本人で
「僕が前を向いて歩く理由」
の著者の中村成信さんに、講師の先生が伺った時のお話しです。
万引きの疑いで
「僕が前を向いて歩く理由(わけ)」の著者の中村さんは、公務員として働いていた56歳の時に「万引き」を疑われ、それがきっかけで自分が認知症だと知ったとのことでした。
以下は、その中村さんの話から
土曜か日曜に、車で仕事に出かけた途中に、スーパーで買い物をしました。
そこでチョコレートを万引きしたという疑いをかけられて、警察への通報と逮捕ということが起きてしまいました。
・その時、万引きのつもりはなかった?
ちゃんと買い物をして店を出ようとしたつもりでしたが、呼び止められました。自分では悪いことはしてないと思っていました。
・その後、認知症と診断
されるまでの経過は?
その時は家族も認知症とは思っていなくて、心療内科で診てもらおうということになり、翌日診察を受けました。
何度か診察に行った後で、大きな病院で診てもらったほうがいいと言われ、そこで認知症だと言われました。
・その時どう感じましたか
私には病院の先生の言葉が次のように聞こえました。
「あなたは認知症なので、
5年か10年したら、
今のあなたではなくなるから
今のうちに好きなことをたくさん
やっときなさい」
そして、強いショックと憤りを感じました。認知症だなどと認めたくない気持ちもあって、よけい憤りがありました。
「こんな病院、二度と来ない!」
と言って帰ってきました。
・その後、どんな思いでしたか
自分では悪いことをしたという気がなかったので、気が引けることはなかったのですが、
家族が「家の中から出ないでくれ」ということで、しばらくは家の中でじっとしていました。
でもそれは
誰とも話せない、どこにも行けない
という結構つらいものでした。
・今、不安なことや困ることは
車が好きだったのに、医者からも家族からも止められて、運転できないのが不便です。
私は写真が趣味なんですが、月に1回か2回、ボランティアの方が写真撮りに一緒に付いてきてくれます。
また、フェイスブックの友達が一緒に写真を撮りに行こうと誘ってくれることも多くなりました。
そのおかげで、生活には楽しみが持てるようになってきました。
・周囲の人に理解して欲しいことは
テレビなどで認知症の人が報道されるとき、重症の人が徘徊したり暴れたりが多いですが、
認知症とは言っても、そういうイメージだけではなく、楽しみが見つけられれば楽しく生きられるんだ、ということも事実なので、
認知症だから何もできないとか、何も分からない、暴れるなどと思わないで欲しいです。
・以下は講師の先生の解説です。
この講義の受講生は中村さんを見て、「本当に認知症?」と思ったことでしょう。
もちろん、全ての認知症の人がこんなふうに語れるわけではありません。言葉がうまく話せない、道に迷ってしまうという人もいます。
ただ認知症というと、何もかも忘れてしまい、何もできなくなっているというイメージで捉えられることが多いのも事実です。
中村さんの話からは、認知症と生きるというのは、人が老いていく過程と同じように、
仲間の手を借りながら
自分の足で人生を
楽しみながら生きる
ということかもしれません。
この講義を受講して
認知症になって、ショックと絶望を感じる人が多いように感じますが、そうばかりではないようですね。
仲間や周囲の人の手を借りて、残りの人生を楽しく過ごすことも十分可能なようです。
ただそのためには、周囲に認知症という病気を理解する人が必要になります。
社会全体で認知症の正しい理解が進むことが何よりも必要なことのように思いました。
参考
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章A] 歴史編)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章B] 本人編1)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章C] 本人編2)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章D] 本人編3)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章E] 本人編4)