放送大学・「認知症と生きる」第13章
当事者から見る認知症 本人編1
認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章B] 本人編1
講義内容の整理
諸外国で認知症の人が自身の言葉で考えを本にしたり、大勢の聴衆の前で発言したりすることが増え、
日本でも認知症の本人同士が出合うことで、互いに支えあいのできる場が作れないかということで、
本人ネットワーク
という活動が2005年から始まるなど、動きが活発化してきました。
ここでは、認知症の当事者の声として、「本人ネットワーク」という活動を始めたNPO法人の代表の方の話です。
本人ネットワーク
本人ネットワークの活動は2005年に始まり、翌年の2006年に年齢も様々な7人の認知症の本人たちが集まって
「本人会議」
が開催されました。
開催したのは、大阪市にあるNPO法人で「認知症の人とみんなのサポートセンター」の代表の方でした。
その代表の方の話です。
・きっかけは
最も大きかったのは、2003年にオーストラリアからクリスティーン・ブライデンさんが日本に来て、
認知症の本人の立場で自分の意見をしっかりと話してくれたことでした。
これによって、認知症の当事者も意見が言えるということが分かり、会議ができると思ったからでした。
・出席者を集めるための苦労は
こういう会議は初めてなので、この会議の場でどういう話をしたいか、ということを一人ずつ聞きに行きました。
家族も、そんなところに本人が行って大丈夫か? という危惧もあったようですが、NHKが取材してくれたこともあり、自分から参加したいという人も出てきました。
・現在の運営は
本人ネットワークの事業自体は終了していますが、いろいろな地域の家族会の中で本人たちの話をするグループが続いています。
さらにその発展形として、デイサービスなどでスタッフたちが本人たちの気持ちを聞いてプログラムを決めるというような形が続いています。
・本人たちが集まることを
家族はどう見ているか
家族の気持ちと本人の気持ちとは相いれないところもあります。
支援者としては両方の気持ちを聞いて調整していくことが大事と思っています。
・当事者同士の支え合いを
周りの人が支援する形ですか
認知症の本人も、自分だけの体験だとうまくいかなくて落ち込んでしまいますが、例えばデイサービスなどで何人かいれば、一人ではできないことも、何人かではできそうな気になると、皆さん言います。
なので、一人ではできないことでも、支え合えば何かできるという希望が持てることが大きいことです。
・これからの方向は
大きな本人ネットワークというよりも、近くの地域で当事者同士が支え合うことが大事です。
家族会、デイサービス、グループホームなどで集まった認知症の当事者同士のために、サポート役の人が当事者同士の意見交換の場をつくったり、支え合えるような雰囲気を作ってもらえればと思います。
アートワーク
この代表の方は、認知症の本人同士が支え合い、自分を表現できる交流の場として、
アートワーク
という形を今も実践しています。
・アートワークでは
絵を描いたり、いろいろなものを創作しています。
認知症初期の人や若年性認知症の人だと、なかなかデイサービスには来たがらない場合が多く、その人たちの居場所作りとして始めました。
認知症になると、自分を表現することが難しくなるので、自由に自分を表現できる場のひとつとしてアートワークがいいのではないかと思ったのです。
このアートワークを指導しているのは、介護士や看護師の人で、美術のことも勉強したことのある人です。
ここでは「療法」という言葉は使っていません。絵を指導するというだけではなく、認知症の本人が自分を変えていくワークができるという意味です。
何にもとらわれずに自由にやって、それが作品という形で残るということが、記憶障害のある人にとって意味のあることと思っています。
この講義を受講して
本人ネットワークという、認知症の人本人の話を聞くという発想は、ある意味コペルニクス的な発想の転換だったと思います。
それまでの、古くは座敷牢にあるいは精神病院に認知症の人を閉じ込めていた時代の発想から大きく転換し、認知症の人にも
ということを広く知らしめるためにも、大きな意味があったのだと思います。
お話しの中で、
「家族の気持ちと本人の気持ち
相いれないところもある」
とありましたが、家族としては
「いつも暴れたり騒いだりする
おばあちゃんが、そんなとこに
行っても仕方がない」
というのが正直なところだったのでしょうか。
こうした活動が、デイサービスやグループホームのあり方に大きく影響してきたのだろうと感じます。
参考
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章A] 歴史編)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章B] 本人編1)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章C] 本人編2)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章D] 本人編3)
(認知症と生きる 当事者から見る認知症[13章E] 本人編4)