認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2、初期の特徴

放送大学・「認知症と生きる」第3章

  認知症の医学的な特徴② アルツハイマー型認知症
  認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章A] 初期の特徴
講義内容の整理

認知症を引き起こす病気の中で最も多いのが「アルツハイマー病」で、日本では認知症の人の約60%がアルツハイマー病と言われます。

ドイツの精神科医のアロイス・アルツハイマー博士が1906年にドイツの精神医学会において症例を報告したのが最初で、

  認知機能障害をきたす
   特殊な病気がある

という報告がありました。そしてその診療録によれば、その患者は入院当初はもの忘れがあったのですが、入院以降は、

  非常に怒りっぽい
  暴力を振るう
  ものを隠してしまう

といった認知症の周辺症状が目立ってきた、ということが記載されていました。

そしてこの病気は、この医師の名前をとって、「アルツハイマー病」と名付けられました。

スポンサーリンク

アルツハイマー病の特徴

アルツハイマー型認知症はゆっくりと進行します。10年、15年、場合によっては20年と年月をかけて進行します。

軽度、中度、高度と進行するに従い、脳に徐々にすき間ができ、脳が徐々に委縮していきます。

脳の中に老人斑と呼ばれるシミ状の点が発生し、同時に神経原繊維変化と言われるシミ状の点が現れます。

そしてこれらが脳の萎縮、つまり脳の神経細胞を減少させていく原因物質なのだろうと考えられています。

アルツハイマー病には次のような特徴があります。

 ・記憶障害や様々な認知機能障害の
  ために日常の生活に支障をきたす

 ・緩やかに発症、進行する

 ・局所神経症状がみられない

高齢になれば誰でももの忘れが増えてきますし、記憶力も薄れてきます。ただ、誰かとの約束を忘れてしまったとしても、日常生活に支障をきたすほどの頻度ではありません。

しかし認知症の場合のもの忘れでは頻度も増えてしまい、誰かとの約束だったり買い物だったりと、日常生活に明らかに支障をきたすようになってきます。

そして、認知症の進行は緩やかに、いつとはなしに発症し進行していくという特徴があります。なので、最初は認知症ということに気づくのが遅れてしまいがちです。

そしてもう一つは「局所神経症状がみられない」ということがあります。これは、まひ、歩行障害、視野の障害、知覚の低下、感覚の障害などの症状がなく、体は健康なのに認知症の症状が進むという状況にあります。

アルツハイマー型認知症では、いつとはなしにもの忘れを主とする認知機能障害が始まり、ゆっくりと進行していくことが最大の特徴です。

記憶の種類

記憶の種類を時間で分類すると、次の3つに区別できます。

 ・即時記憶(60秒まで)

 ・近時記憶(数分、時には数日)

 ・遠隔記憶(昔のこと)

「即時記憶」はごく短い間だけ覚える記憶で、代表的なものとして電話番号があります。

一時的に記憶した電話番号を、何時間もの長い間記憶しているということは、通常はありません。ダイヤルが終わってしまえば普通は忘れてしまいます。

こういった記憶のことを即時記憶と言います。

スポンサーリンク

もう少し長い間覚えている記憶、数分間あるいは場合によっては数日間覚えている記憶を「近時記憶」と言います。

たとえば、「さっきの電話は誰から?」のような、もう少し前のことを覚えているかどうかの記憶に当たります。

さらにもっと昔の記憶、たとえば子供のころどこに遠足に行ったかなどを覚えているような記憶を「遠隔記憶」と言います。

記憶の内容を時間で分類した場合、おおよそこの3つに分けて考えることができます。

また、別の記憶の分類として

  「陳述できるかどうか」

ということで分ける、「陳述記憶」という分類方法もあります。これは、

 ・陳述記憶(言葉にできるもの)

 ・非陳述記憶(言葉にできないもの)

として分類する分類方法です。

たとえば、「さっきの電話は誰から?」という質問に、通常は「〇〇さんからの電話}というように言葉で表現できますので、これは陳述記憶となります。

ところが、車の運転のような運転技術の記憶を言葉で表現することはできません。あるいは編み物をするなどの記憶を手続き記憶と言いますが、こういった手続き記憶は陳述できない記憶として、「非陳述記憶」とされます。

さらに、陳述記憶は記憶の内容で分けることができます。これは、

 ・エピソード記憶(経験)

 ・意味記憶

の分類方法です。

エピソード記憶は、「昨日は何をしたの?」という質問に、「犬の散歩をした」などのエピソードに関する、「いつ」、「どこで」、「何を」といったような経験をさすような記憶のことです。

一方、同じように言葉で表現できても、時間とは関係のない、あくまで知識のような記憶を「意味記憶」と言います。

「この動物は何ですか?」に「パンダです」、あるいは「日本の首都はどこですか」に「東京です」といった知識のような記憶が意味記憶になります。

アルツハイマー型認知症の初期のもの忘れ

こうした記憶の中で、アルツハイマー型認知症における初期のもの忘れの特徴で、喪失する記憶と保たれている記憶は、

 ・喪失する記憶

   数分から数日前に覚えた記憶
   個人的な体験の記憶

 ・保たれている記憶

   遠い過去の記憶
   知識などの記憶
   体で覚えたような記憶(楽器の演奏、運動など)

記憶の種類をまとめると、

  時間で分類

   -即時記憶
   -近時記憶 (失われる)
   -遠隔記憶

  陳述で分類

   -陳述記憶
      -エピソード記憶 (失われる)
      -意味記憶(知識)
   -非陳述記憶
      -手続き記憶など

アルツハイマー型認知症の人の場合は、近時記憶とエピソード記憶に障害があることが特徴と言えます。

同時に、遠い過去の記憶や知識などの記憶は保たれていて、さらに体で覚えたような記憶(楽器の演奏、運動など)も保たれていると言えます。

参考

  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章A] 初期の特徴)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章B] 記憶以外では)
  (認知症と生きる 認知症の医学的な特徴2[3章C] 進行と経過)

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする