自己開示で健康に、実験の紹介、ストレスにも効果がある?

  自己開示で健康を保つ

自己開示をすると、どうやら心身の健康にいい影響があるようです。

逆に、過去に辛い体験をしたのに、誰にも開示しなかった人は、その後

  ガン、高血圧、胃潰瘍、頭痛

などの疾患を患いやすい、なんていうことが、実験の結果として示されていました。
結構、凄いことですね。

これは私が受講した、放送大学の「社会心理学’14」の中の第11章の

  オープニングアップ

というタイトルの章での紹介で、参考としてジェームズ・ペネベーカーの本

  オープニングアップ
  (秘密の告白と心身の健康)

で、内容は

  自己開示の実験と

   その後の追跡調査

ということで紹介されていました。

これは、自己開示の語り手側への影響を調べたもので、健康、社会的適応などにいい影響を与えていたということでした。

ちなみに、自己開示された相手の人に関しての調査は、ここではありませんでした。

ところで、自分のいい点だけを話したり、逆にわざと弱々しく見せたりといった話し方もありますが、それは「自己呈示」と呼ばれ、「自己開示」とは、自分の思いのたけやありのままの姿を、好ましくない点も含め打ち明けることを言うんですね。

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自己開示は健康にいいの?ペネベーカーの実験を紹介

自己開示に関する実験は数多く行われていて、その方法によっては効果があったりなかったりしたようですが、とりあえずここでは、ペネベーカーが行った自己開示に関しての最初の実験の紹介です。

では、さっそくペネベーカーが行った実験の内容とその結果を見てみましょう。

(実験紹介)

実験はアメリカの全寮制大学で行われました。過去のトラウマ経験(精神的に動揺したストレス経験)についての開示が、その後の心身の健康状態に及ぼす影響を検討するということでした。

実験に参加したのは

  男性12名、女性34名の
   合計46名の大学生

でした。

実験参加者は4日連続で実験室に呼ばれ、そこで、

  4日連続  1日15分
   文章を筆記する

ことで行われました。

この筆記は匿名で行われ、書いている途中も周囲には人はいませんでした。さらに書いた文章を提出するかどうかも任意でした。

また、実験参加者は次の4つのグループに分けられました。自分が経験したトラウマについての出来事と、その時の感情に関しての開示方法の違いによってです。

  ①事実・感情の開示:出来事と感情の両方を書くグループ

  ②感情の開示   :その時の感情だけを書くグループ

  ③事実の開示   :その時の出来事だけを書くグループ

  ④無関係の話題  :(他と比較するためのグループ)

そして、実験参加者が書いたものへのフィードバックや評価はありませんでした。

そこで学生によって語られた内容は、大切な人が亡くなった話、失恋、みんなの前で受けた屈辱、家族や友達とのケンカなど、多岐にわたっていました。

実験の結果は、「①事実・感情の開示群」に対してかなりの効果がありました。

実験直後の測定では

  ①事実・感情の開示群
   ⇒血圧とネガティブ感情が上昇

そして、4か月後の追跡調査では

  ①事実・感情の開示群
   ⇒疾病による活動制限が低い
    身体的な健康度が高い

さらに、6か月後

  ①事実・感情の開示群
   ⇒学生保健センターへの訪問回数が減少

この実験では、実験参加者は書いたものを提出する必要もないし、提出したとしても匿名であり、フィードバックもないという状況で、いわば

  ひとりで、
   書きっぱなし

の状態での実験だったんですが、それでも

  「辛い事実を、
   その時の感情と共に書き出す」

ことで、自己開示の効果がしっかりとあったようでした。

この実験を受けて、その後さまざまな形での後続実験が行われたのですが、その結果は「自己開示」の影響・効果は、思いのほかかなり広範にわたっていたようです。

その影響・効果を、感情、認知、身体的健康、社会生活という観点で調査したところ、次のようなことが判明しました。

  a.感情
     開示直後はネガティブ感情が増し、
      泣き出す人もあった
     しかし数か月後、気分は向上
      安堵感、満足感、幸福度などを感じた

  b.認知
     辛い出来事に対しての認識の変化が生じた
     ストレス経験と自分自身の理解が深まり
      分かった、理解した、解決した、
     ワーキングメモリの容量が増加した

  c.身体的健康
     (深いところまで開示した人は)
      慢性化した体の緊張状態が和らいだ
     免疫機能の改善を示す指標が上がった

  d.社会生活
     学業成績、失業者の再就職率などで
      プラスの効果があった

いや~… 心と体だけでなく、学業成績や失業者の再就職率なんてまで言われたら、かなりその気になってしまいそうです。

自己開示の実験の結果を詳細にみると

ペネベーカーが行った実験の後、いろんな自己開示に関する実験がされたのですが、その中には効果のあるものだけじゃなくて、あまり効果のないものも入り混じっていました。

でも、いろんな実験を分析したことで、どういう自己開示の方法がより効果があるのかがだんだん分かってきました。

まず最初に示されたのは、こんなことでした。

 ・1日15分~45分程度を3~5日
   程度では、あまり効果が期待できない

 ・抑うつ傾向のある人には、
   むしろ悪化させる可能性もあるので注意

 ・比較的健康な状態にある人の、
   健康予防効果、と理解するのがよい

ということでした。ちょっと注意ということですね。

参加者については、性別、年齢、人種、教育レベルの違いが効果に影響がなかったとのことで、どうやら人間に普遍的なことのようです。

そして効果の大きさでは、開示時点で

  ・身体的健康度の低かった人
  ・高いストレスを経験していた人
  ・悲観主義の人

に対して
   ⇒より強い効果があった

ということでした。
悪化させないレベルを見極められれば、かなり効果的な方法だと言えるようです。

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その他、場所に関して

 場所: 個室の方が効果が大きい
   : 自宅の方が実験室より効果が大きい

プライバシーが守られる方がいいようです。
どのぐらいやれば、ということでは

 回数: 3回未満より3回以上で効果があり

 時間: 1回15分未満より15分以上で効果あり

時間も回数も多い方がいいようで、やっぱり「やればやっただけ」という感じですね。
開示の方法としては、とにかく何でもいいみたいです。

 方法: 手書き、タイプ、口頭、どれでもいい

過去の出来事の起こった時期は

 時期: 15か月以上前の出来事の開示より
     15か月未満の出来事の開示の方が
      効果が大きい

あまり昔の出来事のことだと、効果は少なくなってしまうようです。
1年以内ぐらいに憂さを晴らしておいたほうがいい、ということですかね。

そして、効果が表れる時期と期間については

 効果: 1か月未満に表れる
     ただし、いずれ効果は薄れる

ということでした。何となく筋トレの効果を連想してしまいます。

あと、ちょっと意外だったのが、内容についてですが、

 内容:ネガティブかポジティブか
    ・・・ は無関係

ネガティブな内容の開示だけでなく、

  ポジティブな内容の開示でも
   効果があった!

ということでした。

この、ポジティブな内容の自己開示の効果に関しては、まだ実験の数が足りないのではっきりとは言えないようでした。が、ちょっと驚きです、でも分かるような気もします。

  話したいのに
   ずっと我慢する

ことがストレスの原因なのかもしれませんね。

自己開示のやり方を考えてみる

ところで、「王様の耳はロバの耳」って物語、ありますよね。

あの物語、「王様の耳はロバの耳だ」ということを知ってしまった床屋が、王様に「このことを誰かに話したら殺す」と言われてしまったという話です。
誰にも言うまいと我慢し続けていたら、床屋のお腹がだんだん膨れてきてしまいました。

医者に診てもらうと
「おお、これは言いたいことを我慢し過ぎてお腹が膨れる病気だ。このまま放っておくと死んでしまうぞ。誰かに話すか、せめて穴を掘って、その中に叫びなさい。」
と言われて、穴を掘って、その穴に向かって
  「王様の耳はロバの耳!」
と叫んだ、という話でした。

これほどに、昔から

  「話したいことを話さずにいる
   ということは、とても苦痛だ」

ということが言われていたんですね。
自己開示の影響の大きさを感じてしまう物語です。

さらにところで、効果と危険について、

  効果が表れる時点 : 1か月未満
   ただし、効果は永続するわけではない
  調子が悪い時は、控えた方がいいかも

というあたりは、私の場合は

  筋トレに似ている?

という感じがして、いかにも「人間」という気がしてしまいます。
筋トレも、トレーニングをした直後は筋力が落ちますが、その後以前のレベル以上に回復しますよね。かつ、その筋力はいつまでも永続するわけではないですしね。
そして、体調が悪い時はやらない方がいい、というのも同じです。

「自己開示」をするときの注意として、最初のペネベーカーの実験の例から考えると、何となく最初はひとりでやった方が、誰かに話すより安心なんじゃないか、という気がします。

ペネベーカーの実験では、

  ・誰にも見られずに

自己開示するだけで、心身の健康にいい影響があったということでした。
でも、もし誰かに実際に話してしまったら、

  ・フィードバックがある

可能性がありますよね。そう、評価です。

  ・そんなこと、気にするな
  ・誰だってみんな同じだ
  ・気を強く持って
  ・忘れた方がいいよ、飲もう

こんなフィードバックが、さらにまた

  ・新たなストレスにつながってしまう

可能性もあります。

語られた人としては、何とか励ましてあげないといけないんじゃないか? なんて思ってしまうし、それがまた

  「フィードバックしなきゃ!
   何もアドバイスしないと
   語られた自分の方が
   ストレスをため込んでしまう」

なんて感じるのかもしれません。

よほど信頼できる相手、あるいはじっと耳を傾けてくれる相手、あるいは訓練されたセラピストのような人でないと、なかなか誰かに話すというのは難しいと思います。

そういう意味では、自己開示は

  ・日記に書く

  ・ひとりカラオケで
   歌で発散する

  ・車の中でブツブツ言う

みたいに、信頼できる相手を見つけるまでは、まずは一人でできることから始めるのがいいように感じます。

ところで、ところで、・・・

この「自己開示」、ネガティブなことだけじゃなくて、

  ポジティブな内容でも同様

ということでした。
ただ、こちらはまだ研究例が少ないので何とも言えないということだったんですが、多分同じなんだろうと思います。

ネガティブなこと同様、ポジティブな内容でも、

  ・私はこんなふうに頑張って
   東大に合格したんです!

なんて言う話を、うっかり誰にでも話すわけにはいきませんよね。
これまた話したくても話せない、欲求不満になりそうな話です。

だからこそ、幸福学白熱教室で、エド・ディーナー博士が言ったこと、

  パートナーにいいことがあった時、

   いっしょに喜んでくれる?

ということが言えるんだと思います。こういうカップルは将来別れる可能性が低いとのことでしたが、こんなパートナーになら、ネガティブなことを自己開示しても安心な気がします。

そしてまた思い出すのが、太宰治の「人間失格」の主人公・葉ちゃんこと、大庭葉蔵

  「自分は隣人と、
   ほとんど会話ができません」

とのことでした。ネガティブな話やポジティブな話どころか、普通にある本当のことさえ誰にも話せなかったようでした。

とても頭のいい人だっただけに、自己開示をうまく活用する方法を使えたら、もっと幸せな人生になっていたのかも、なんて思ってしまいます。

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